第20話


「おい、嘘だろ」

「嘘ではない。まぁ、もともと婚約者候補としてクレメンス家にきたのは確かだが」

「今じゃぁ、"骨抜き軍人"なんてあだ名がつくくらい溺愛ですよ」



クスクスとロイが笑いながら補足を行う。キースベルトにとって追い討ちでしか無かったが、それは確かにシフォニア王国公認の事実である。



「残念だったなキースベルト・ロドワット」

「師団長大人気ないです」


鼻で笑うランスロットにすかさずロイがツッコミを入れる。しかし当の本人たちは外野の声を物ともせず睨み合っているのだ。この2人何だかんだ相性が良いのではと思うロイだ。


「さて、話もまとまった事だしそろそろ木刀による模擬訓練でもしましょうか」

「!!」



その声の合図で和やか気味になっていた空気が一変した。

ランスロットとロイ、その他シフォニア王国騎士団全員がサッと声の方へ向かって跪いた。きょとんとした顔で様子を伺うのはナカルタ王国の騎士達のみだ。

ザリッと靴が自慢の砂を踏み潰す音がする。



「みな楽にするといい。」

「はっ」


ザッと音と共に騎士団員が皆、面をあげる。ランスロットはスッと目を細めてその声の人物を確認した。騎士団の礼装を纏うその姿はいつみても緊張を共にするのだ。

シフォニア王国騎士団総帥、そしてシフォニア王国第1王子であるバルサルト・シフォニアナ・ド・シフォニア皇太子殿下がすっと微笑みを浮かべた。


前回お忍びでエレーナあった時の空色とは違い王家特有の白銀色の髪は彼に良く似合っている。そしてそれ以上に身の内からでている王家としての威厳は、ランスロットにとってすら背筋が伸びるものだ。



「全騎士団長とナカルタ王国代表はこちらにきなさい」

「はっ」


ランスロット含む師団長が集められる中、副師団長によって模擬訓練が再開される。バルサルトが来たことで場も引き締まったようだ。

そんな中、バルサルトはニコニコと深みを持った笑みを浮かべナカルタ王国騎士団団長に顔を向けた。


「共同訓練の方はどうかな?」

「はっ。有意義な時間を頂戴してありがたく思っております」

「それなら良かった」



にこりと微笑むバルサルトはそのままチラリとランスロット後方で訓練を再開した団員に目を向ける。


「ランスロット師団長はこの訓練をどう思っている?」

「はっ。ナカルタ王国の団員は我々にはない豪快さのある動きをされます。それに感化されて我が隊員も色々考えることも多いでしょう。短期間ではありますがお互い利となる物になるでしょう」


ランスロットの言葉にバルサルトは満足そうに頷いた。「僭越ながら殿下」とシフォニア王国第1騎士団師団長ディービットがバルサルトに声をかける。



「今度の公開模擬戦の事ですが、ぜひナカルタ王国のみなも参加されてはと思うのですが」

「それは....」



バルサルトが言い淀む。

模擬戦は基本的に団関係なく2組に分かれて勝敗を決める戦いだ。通常なら同組織である騎士団で行うが、そこでも1〜3団の日頃の鬱憤やいざこざが持ち込まれる事がある。勿論表立ったものにはならないが。

お互いを知っているからこそお互いの戦略が光るのだ。そこに他国の知識を入れる。つまりそれは国の戦略などを相手に公開することにもなる。

今は親善国ではあるが、いつ牙を向けてくるかわからない。

しかしそれをナカルタ王国騎士団目の前に言うことは憚れる。



「では今回の公開訓練の目玉として国同士の模擬戦をするのはいかがでしょう」

「....それは楽しそうだな」




第3騎士団師団長が提案をする。

交流試合として1組交えるなら、王族や中枢幹部の目を向けて今後動きやすくなるかもしれない。

ふむ、バルサルトが頷く。その仕草にランスロットの背中が凍った。

嫌な予感がする。




「ではこうしよう」



バルサルトはにっこりと微笑む。



「公開模擬戦の目玉試合としてランスロットと、ロドワット殿の交流試合を行おう」

「................」




ランスロットはその日が心底来ない事を願ったのだった。



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