第19話


「おう!会えたぜ。ちっこい頃から可愛かったけど、久しぶりのエレは可愛くて美人だった」

「おーいいな美人の幼馴染」



屈みこんでコソコソ話をしているがその声は筒抜けだ。ロイがランスロットの方を見ながら様子を伺うが、ランスロット本人はそれに気づかない。



「抱えてクルクル回ると嬉しそうにするのが堪らん。絶対ナカルタ国に連れて帰る。」

「ほ────う」



2人の後ろで氷点下に近い声が響く。

振り向いた先には、近くまできていた変人軍人と名高い"ランスロット・リズ・ド・クレメンス"の姿があった。



「共同訓練中に私語とは感心しないなキースベルト・ロドワット殿」

「ランスロット・リズ・ド・クレメンス....」



見下すように目の前に佇むランスロットに向かって、地を這うような口ぶりでキースベルトが呟く。自分の事は棚上げだなぁとロイは苦笑をするが、いまは空気をよんで黙り込み傾聴に勤しんだ。



「先日はに会いに来てくれて感謝するよキースベルト・ロドワット殿。」



ランスロットは口角をあげて笑みを作る。しかし仮面から見える瞳は全くと言っていいほど笑っていなかった。

対抗するようにエレーナをわざと愛称で呼ぶのは全くもって大人気ない。



「だがレナをナカルタ王国に連れ帰るのは認められない。...あれは私のものだ」

は物じゃねぇ」



冷酷な声とドスの効いた声。さながら水と油だ。その内容が女性関係とは、数年ランスロットの輩下にいたロイにとって青天の霹靂なのだが。



いや。私のもので、私の最愛だ。宮廷誓約によってそれが定められている」

「シフォニア国独自の誓約なんて無効だ!問題はエレの気持ちだろう。政略結婚なんかでエレが幸せになれるとは思えない!」



キースベルトの叫び声にランスロットはきょとんと目を瞬かせた。

その後ろでロイが「ふふ」と吹き出した。



「.....お前何か勘違いしてないか」

「何を」

「私とエレーナは恋愛結婚だ」

「は?」



もし仮に仮面をつけておらずに顔が見えていたならドヤ顔のそれだったろう。

そして素っ頓狂な声を上げたキースベルトのその顔は絶望の色を濃くした。




一拍





「はーーーーー!???」





敗北キースベルトの叫び声が騎士団訓練棟に響き渡ったのだった。






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