第21話
満月の夜。ランスロットは寝室の寝台に横たわり、仕事の資料を読み込んでいた。騎士の服を脱ぎ捨てYシャツ一枚。首元のボタンを外してゆったりと着崩している。髪もいつものように1つに束ねてはおらず長い赤銅色をそのまま流す。屋敷内では外すようになった仮面も、今は机の上だ。ため息をついたランスロットはどこか色気を孕んでおり、世の女性がみたら卒倒しそうなものだった。
エレーナを部屋に閉じ込めるように外出制限を告げてから10日になろうとしている。テイラーの報告では薬もちゃんと飲んでおり体調も戻って来ているようだ。定時過ぎに屋敷に戻るようにできたのは最初5日くらいで、後半は深夜0時を過ぎる日々。エレーナには会えず仕事量は減らない。持ち帰れる仕事は持ち帰って作業をしてきたが今日は何故かそんな気分になれなかった。いつもより幾分早く帰れたがすでに彼女は寝ているとの事で肩を落とした。
「はぁ...」
何度目かわからないため息が溢れる。最近の自分は以前の自分とは違いすぎる。全ての事柄をエレーナに関連付けて考えてしまっている。
そして、エレーナに対してまるで
「愛想をつかされてしまうかもしれんな」
片手で顔を覆い自嘲気味に呟く。今日は満月だ。ふと、彼女にはじめて仮面の内を晒し秘密を漏らしたあの日を思い出した。あの日から2人は少しずつ近づいていった。しかし今は、仮面を外す機会が多いのにあの時より心が離れている気がする。束縛し屋敷に留めるランスロットにエレーナだって愛想をつかしてもおかしくはないのだ。
だがもう自分は、彼女を手放せない。それをわかってもらわねばならない。
またランスロットの心の奥の闇がドロドロと溢れていくのがわかった。
その時、
コンコンコン
「ッ‼︎」
寝室の扉が音を立てた。ハッと目を見開いたランスロットは一呼吸置いてから違和感に気づく。
寝室の扉を叩くのは殆どがテイラーだ。しかし、彼はノック後少し間を置いてからに入室をしてくる。今回はそれが無いのだ。そしてもう1つ、それはノック音の先────。
コンコンコン
もう一度。控えめに慣らされたそれは、廊下を阻む扉からではなく、隣の部屋とを隔てる扉から。つまり、エレーナの寝室を阻む扉からだ。
「.....エレーナか?」
ランスロットはいつものように平常心を心がけながら声を発する。あちらの部屋からならエレーナ以外あり得ないのだが、そう聞かずにはいられなかった。
「あの....」
小さく漏れた声は、たしかにランスロットの最愛の声。ランスロットはガバリと寝台から上半身を起こした。
「....そちらへ行ってもよろしいですか?」
「........」
逡巡。
以前鍵を渡した時、自分は彼女になんと言っただろうか。
────いつでも入って来ていい。いつでも構わない。
いや、構う。現段階でかなり構う。
ランスロットは足を寝台から出した後頭をガシガシとかく。そして落ち着くようにと息を大きく吐いた。早く返答をせねば、エレーナが困惑してしまう。きっとかなりの勇気を出してあの扉を叩いたのだから。
「....ランスロットさま?ご迷惑でしたか?」
「!!いや!......迷惑ではない。構わない。..........入っておいで。」
平常心を心がけて扉越しのエレーナに声をかける。少し経った後、カチャリ....と音を立てて常に施錠されていた扉の鍵がゆっくりと外された。
キイッ....と音を立てて開かずの扉がゆっくりと開いたのだった。
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