第10話
バルサルト殿下。
騎士団を統一しているバルサルト・シフォニアナ・ド・シフォニア殿下はこのシフォニア王国の第一王子の名だ。第二騎士団師団長であるランスロットの上司でもある。
つまり、この笑顔でお菓子を食べている彼は次期国王。
「ちゃんとここに行くって書いてあるんだからいいじゃないか」
「騒ぎになったらどうするんです」
「変装してきたんだから大丈夫大丈夫」
カラカラと笑うバルサルト殿下に呆れ顔のランスロット。そして真っ青な顔をしたエレーナ。エレーナの異変に気付いたランスロットはギョッと目を見開いた。
「エレーナ?」
「で、で、で、殿下」
「大丈夫だよエレーナ殿。不敬にしたりしないから」
朗らかに笑うバルサルト殿下にエレーナは意を決して口を開く。
「失礼ながら申し上げますバルサルト殿下」
「ん?」
「わたくし、いつか殿下にお会いできたらお礼を述べたかったのです」
「エレーナ?」
エレーナの行動に男2人だけでなく、後ろで控えていたレイヴンも首を傾げた。ティナだけはエレーナの言動にニコニコと見守っている。
「ティール殿との婚約の件、ランスロット様との宮廷誓約の件ではお手をお貸しいただいたと伺っております。」
「...ああ!」
「殿下のお心遣いがあったからこそ今わたくしはランスロット様の婚約者としていられます。本当にありがとうございました。」
そう。エレーナはずっと心に留めていたのだ。あの監禁事件の中、裏で沢山の人が動いてくれた事。その人たちに会えたら感謝を述べるのだと。特にここにいるバルサルトは、シフォンとの婚約を押しとどめてくれた。あれが無ければ、宮廷誓約が受理されて奪還が難しくなっただろう。
「顔をあげて。エレーナ・ラド・ソフィア」
「...はい」
許しを得たエレーナはゆっくりと礼を解いた。バルサルトの方に顔を向けると、優雅な姿勢で椅子に座ったまま、屈託無い笑顔でエレーナを見ていた。
「うん。とても誠実で、とても良い子だ。ランスロット、良い子と巡り合ったね」
「恐れ入ります」
「エレーナ。君の感謝を受け取るよ。でもこちらも申し訳無かった。君のお母さんが亡くなってダダイが傷心していたことを知っていたのだけれど、それを救う事が出来なかった。そのせいで君にも辛い生き方を強いてしまった。領主を守り、国民を守るのが私たち王族の役目なのに」
「勿体ないお言葉です」
エレーナは首を振ったあとランスロットを見て笑顔を向けた。
「いまがとても幸せですから」
「───ッ」
エレーナの言葉にたじろいだのはランスロットだった。それを見てティナがクスクスと笑った。レイヴンもどこか楽しそうだ。
「ランスロット様。ここでエレーナ様を抱きしめるのはおやめくださいね」
「......だから今必死に制御してるだろうティナ」
「ふふ。そうですね」
そのかわりにと言うように、ランスロットはエレーナに手を絡めてる。それはそれで恥ずかしいエレーナは少しだけ頬を朱く染めた。
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