第9話


「ランスロット殿とはね仕事仲間なんだ」

「騎士団の方なのですね」

「名前はバルサと言います。どうぞよろしく」


そう言って立ち上がったバルサは騎士団の礼を取る。エレーナも淑女の礼を返した。

するとレイヴンとティナがお茶と茶菓子を持って戻ってきた。バルサの目がキラキラと輝く。


「ここのパティシエって有名な人なんだよ。わー美味しそう」

「2人ともありがとう」



茶菓子を持ってきてくれた2人にエレーナがお礼を言う。それに2人が微笑んで頷いた。


「エレーナ殿も食べる?」

「いえ。わたくしたちはそろそろお暇しようと思っておりまして」

「そっか。それならもう少し待ってたら?お迎えが来ると思うよ」



首を横に振ったエレーナに、もぐもぐとお菓子を食べながらバルサは意味深な事を言う。

エレーナは瞳を瞬かせる。

すると、イベントを催している方向が俄かに騒々しくなったことに気付く。催しの成功で盛り上がっているのかとも思ったが違和感がる。レイヴンがエレーナを守るように庇った後、ざわつきの方を睨みつけた。



「エレーナ様。オレから離れないでください」

「ええ。」



以前王宮での夜会にも、賊が騒ぎを起こしたと聞いている。貴族の催しに否定的な人間は少なからずいるのだと、以前ランスロットが話していた。今回レイヴンが付き添ったのもすぐに対処するためだった。

しかし、レイヴンの緊張はすぐに溶ける。会場の向こうで見知った顔が居たからだ。



「...ランスロット様!」

「エレーナ」


人が大勢いるのに、彼の姿はすぐにわかった。仮面をつけ周りを気にしない風情で颯爽と歩く彼はいつ見ても美しいと思う。仕事場からきたのだろう、騎士団の制服を着たままだ。エレーナを見つけると柔らかな笑みを浮かべてそのまま抱きしめた。きゃあっと会場から悲鳴が上がる。屋敷でのスキンシップとは違い人目があるためエレーナは顔を赤くした。



「エレーナ。茶会はどうだい?」

「ええ。楽しませていただいております」

「そうか」



エレーナを体から離すと背を屈め視線を合わせるとランスロットは優しい仕草で彼女の頭を撫でた。そして、大きな手で輪郭をなぞるように撫でた後親指で目下めもとに触れた。



「少し、疲れた顔をしているな」

「そうでしょうか」

「屋敷に戻ったらゆっくりしよう」


ランスロットの気遣いにエレーナは微笑みながら頷いた。

そしてようやく1つの疑問にあたる。首を傾けてランスロットに声をかけた。



「今日はお仕事では?」



今日の茶会は2人での参加のところ仕事の都合でエレーナ1人となったのだ。だのに、今ここにランスロットがいる。エレーナが心配で、仕事を抜けてきたのかもしれない。迷惑をかけた事に眉をひそめた。エレーナの感情に気づいたのかランスロットは「違う」と首を横に振る。



「少し状況が変わってな」



はぁっと肩越しにため息を吐くと、ランスロットは胡乱な目を後ろの人物に向けた。




「やぁ!ランスロット殿」

「....書き置き残して消えるのはやめていただけませんか、バルサルト殿下」



"バルサルト殿下"その単語にエレーナはピシリと肩を揺らした。


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