第11話


そんな姿を見て、声をあげてバルサルトが笑った。


「堅物の変人軍人君が"骨抜き軍人"なんて言われているのも頷けるね。良いものを見せてもらったし、そろそろ周りがうるさくなるだろうからお暇しようかな」

「....あんた、俺で遊ぶためにここに来たんだろ」

「やだなー。エレーナ殿を見に来たんだよ」



バルサルトが椅子から立ち上がる。「ランスロット全然会わせてくれないじゃん」と軽口を言いながら、パンパンとマントについた砂を叩いて落とした。ランスロットは仮面越しにギラリとバルサルトを睨みつけた。エレーナの手を離しそのまま彼女の腰に添えるように手を置く。



「良いですかバルサルト殿下。いくら貴方でも私の許可なくエレーナに近づくのを禁じます。近づかないでください。」

「ランスロットさま!」



エレーナは慌てた。ランスロットの発言は丁寧な物言いとは裏腹に視線も行動も不敬罪と捉えられても仕方がない物だった。

しかし、バルサルトは瞳を見開いてニヤリと笑った。



「なるほどなるほど。では許可があれば近づいて言い訳だね」

「は?」

「エレーナ殿。今度騎士団の公開模擬戦に来てみるといい。王族と家族のための公開だ。滅多に見られないランスロットの師団長っぷりが観れるよ」

「...まぁ!」



そんな催しがある事は初耳だった。そっとランスロットを見ると本人は気まずそうに顔を背ける。バルサルトはその様子をケタケタと笑った。



「じゃぁランスロット。門の前にいるはずのロイと一緒に戻るからお前はエレーナ殿を屋敷に同行してやりな。またお会いしましょうエレーナ殿」

「殿下!!」



エレーナが礼をしているうちにバルサルトはスタスタと歩いていく。ランスロットはエレーナとバルサルトを交互に見てから焦ったように声をかけた。



「エレーナ、殿下をロイのもとまで送ってくるから少し待っていてくれ。レイヴン、よろしく頼む」

「はい」


レイヴンにも声をかけた後ランスロットはバルサルトを追いかける。嵐のような出来事にエレーナはぽかんと2人を見送った。

初めてあったバルサルト殿下はなんとも自由奔放である。そんな上司に振り回されているランスロットはなんとも珍しがった。エレーナにとってランスロットの存在は大人で冷静で何事にも動じない、そんな存在だったからだ。新たな一面を見れてエレーナはふふっと声を出して笑った。


「エレーナ様」

「あのように、振り回されるランスロット様初めて見たわ。ふふ」

「たしかに、私が騎士団に居た時もあのような姿を見たことはありませんでしたね」



レイヴンが在籍していた時、ランスロットはまだ副師団長補佐だった。ロイのように上司と部下の架け橋というには怖がられる存在ではあったが、淡々と仕事をこなす姿は有能で信頼に値するものだったと記憶している。

クレメンス家の屋敷で働き始めてからもその印象は変わらない。日に日に仕事人間になり、屋敷に帰らない日も多くあり騎士団に居た時より遠巻きに見るだけになっていたのだが。それでもランスロットはレイヴンにとっても、完璧な存在だったのには間違いなかった。それが変わったとしたら、とレイヴンは考える。



「きっとエレーナ様の影響だと思いますよ」

「私の?」

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