第72話
「第2騎士団がなんの御用でしょうか」
笑顔を見せるが、少しだけ苛立ちを孕んだ声をあげたのは勿論シフォンだ。ちらりと顔を向けたのは今もなおエレーナを抱きとめたランスロットへだ。この仮面姿の存在はシフォンも知っている。第2騎士団師団長ランスロット。
「エレーナ・ラド・ソフィアの捜索願が出されまして、その捜索に参りました。」
「捜索願い?彼女は失踪した訳ではありません。ソフィア家の許可があり、彼女の方からここに来たのです」
ロイの発言に心外だとでも言うように両手を顔の前にあげシフォンが答える。
「エレーナ・ラド・ソフィアの身は我がクレメンス家が婚約者候補として預かっている。その彼女が私の元から失踪した。探さない訳にはいかないだろう」
「クレメンス家の婚約者...?エレーナが?」
エレーナの婚約者か誰なのか、そこまで情報を持っていなかったシフォンはサッと顔を青くした。先日エレーナの元を訪れた時たしかに「ランスロット」と助けを求めた顔を思い出す。ランスロットの方を改めて見ると信じられないくらいの低く鋭い声がこちらに放たれる。
「軽々しく彼女の名前を呼ぶな」
「....ッ!!」
たった数分で理解できてしまう。この男のエレーナに対する執着を。しかしこの婚約は、ソフィアの医学を取り込むために長い年月を掛けてきた計画の一つだ。シフォン自身も引き下がる訳にはいかない。シフォンはぐっと下唇を噛み締めると恭しく礼をとった。
「これは失礼いたしました。しかし、この婚約はティールとソフィアの名で行われたれっきとした契約でございます。そして本日宮廷に婚約の誓約申請をしております」
宮廷誓約、それはこのシフォニア王国の
宮廷誓約と聞いたエレーナはピクリと体を揺らす。絶対的婚約を突きつけられてぐらりと眩暈がした。
「ランスロット様」
エレーナはそばにいる最愛に声をかける。ランスロットは抱きとめていたエレーナの体をゆっくりと下ろして地面に足をつけさせた。
いつも通りの目線になり懐かしくて幸せで、エレーナはふわりと微笑んだ。
「なんだ」
「わたしはこの結婚はできません」
ランスロットは小さく息を呑んだ。それに気づかないエレーナはさらに深く微笑んだ後、シフォンに向かって淑女の礼を取った。
「申し訳ありませんティール様。わたくしはこの婚姻はできません。いくらソフィア家の名の下でも、貴族にあるまじき事だとしてもどうしても無理です」
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