第71話



守衛の声とともにけたたましい破壊音が廊下に響いた。守衛はすぐさまシフォンの元へ飛び出すと庇うように背を向け階段下の方へ視線を向けた。音の下扉は破壊されたようで地面に壊れ落ち、埃や塵がパラパラと待っている。




「失礼します」

「.....貴方は?」

「申し遅れました。は第2騎士団です」



シフォンの低い声に反するようにロイの優しい声が耳に残った。エレーナはハッとして両手を胸の前で組んだ。ロイが来てくれた。と言うことは.....。エレーナは思わず階段の近くまで身を乗り出す。ロイの隣にはレイヴン、メニエル様の姿もあった。そしてなにより目に飛び込んできたのは赤銅色の────エレーナにとって会いたくて会いたいくて堪らなかった色だ。



「ランスロットさま」

「エレーナ。無事か」



ロイの隣で仮面の男がツイっとこちらを見上げている。騎士団の団服を着てこちらを見上げる姿は凛々しかった。相変わらず仮面のお陰で表情こそ読み取れないが、声色からして多大なる心配を掛けてしまった事がうかがえた。しかし、硬さの残るランスロットの声はエレーナの緊張を溶かしていくのには十分で思わず笑みが零れた。




「いま、そちらに向かう」

「行かせるものか」

「....ッ!!」



2人のただならぬ雰囲気を察知したシフォンは苛立ったように声を荒げた。手短にいるエレーナを確保しようとこちらに伸ばした手をエレーナは必死で避けた。ガチャリと階段下で、剣を鞘から抜く音が複数起こる。ランスロットは足を階段方向へ一歩進めた。




「いいえランスロットさま!わたしから迎います」

「は?」



エレーナは今までで1番と思えるような声をランスロットに向ける。もう何も怖くなかった。

エレーナはとっさに階段から遠ざかると、階段横にある、下の階を見下ろせるように作られた柵に足をかける。両手を縛られてはいるが幸い策を掴む程度の自由さはあった。高尚な細工で作られた模様は足掛けの役割を果たし柵をよじ登ると....




タンっ!!

エレーナは迷う事なくその柵を蹴った。

宙を飛んだエレーナは、もちろん重力に逆らえずそのまま階段下に落ちていく。しかしエレーナは目を閉じなかった。





「エレーナ!!」




すぐそばにランスロットが手を広げて駆け寄ってくるのが見えたからだ。そのままランスロットの腕の中に吸い込まれるようにに抱きとめられた。衝撃を物ともせず受け止められるのは日々の鍛錬のおかげなのだろう。

ふはっと耳の近くから懐かしくもよく馴染む笑い声が起こる。




「ほんと君は突拍子も無い事をしてくれるな」



ランスロットはひと笑いした後、息を大きく吐き出エレーナを抱きかかえたまま肩に顔を埋めた。



「無事で良かった」

「ランスロット様」




心を具現化したような声色にエレーナは胸が締め付けられるような気がした。ランスロットの胸に少しだけ顔を押し付けるとその何倍もの力で抱きしめ返される。それがなんともむず痒くて幸せで堪らなかった。



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