第63話
ネアの言葉にランスロットはカッと血が頭に昇るのを感じた。
この女は何を言っている。いや、むしろ自分が何を言っているかも理解出来ていないのではないか。
エレーナを拉致し他の男に嫁がせるだけでは飽き足らず、自分の実娘を格上の家へ嫁がせる。そうする事でエレーナという存在を抹消し、クレメンス家との繋がりを保とうとしている。社交界でイーダとの婚約話を捏造したのは他でもないこの女だろう。ランスロットの苦手分野で、かつ女の領域である部分から攻められた事に悔しさが滲む。外堀から埋めていくのがこの女のやり方か。
「実はわたくし、先日ランスロット様を王都でお見かけしましたの」
突然、イーダが恍惚した表情でランスロットを見つめ話し始めた。
「お義姉さまとお出かけをなさっていましたよね。お顔のお面がありませんでしたがすぐにわかりましたの。貴方がランスロット様だと」
どうやら先日エレーナと出かけた所を見られていたようだ。いつもなら自分への視線に敏感に反応していたが、エレーナの周りに神経を研ぎ澄ませていたため気づかなかったのだろう。浮かれていた自分を心の中で叱咤しつつ、ランスロットはイーダの声に耳を傾ける。今まで目もくれなかった自分にランスロットの視線が向いている事に嬉しくなったのかイーダはほんのり頬を染めた嬉々として喋る。
「さりげなくお荷物を持ったり、エスコートしたり、時々微笑む姿に心奪われましたわ。わたくしの理想の夫の姿でした。」
「は?」
「どうして仮面など被ってらっしゃるの?お美しい顔をされているのに勿体ないですわ。わたくしの横に並ぶに値するお顔なのに。」
ズカズカと地雷を踏んでいく姿にランスロットだけでなく、ロイが胡乱げな表情になる。ランスロットが仮面の事や顔の事を詮索されるのが嫌いだということは貴族界隈で有名な話だ。白い目で見られているのを物ともせず仮面姿を貫いているからこそ裏で「変人」と言われているわけだが。
「イーダ・ラド・ソフィア嬢」
「は!はい」
ロイが止まる前にランスロットがイーダの名前を呼ぶ。ぱっ!と目を輝かせたその表情は大半が思わず笑顔になるであろう笑みだ。しかし今のランスロットにとっては不快の何者でもなかった。
「以前お会いした時よりも頭が空っぽのようだ」
「.....ッなんですって!?」
「お前と結婚なんて死んでもごめんだ。」
怒りで顔を真っ赤にしたイーダにランスロットは一瞥する。その後ろでロイは額に手を当てて首を横に振った。上に立つものが私怨で動くのは良く無いが"嫌い"を振り切ってしまったランスロットに打つ手はないのだ。仕方ない師団長も人間だもの。
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