第61話



ランスロットはソファに座りじっと一点を見つめていた。後ろには第二騎士団副師団長のロイ・ハーツ。こちらはランスロットの後ろで微動だにせず立っている。2人が現在ソフィア家の客室へ通され待機していた。



「師団長」

「ああ」



目線を合わせぬまま2人は声を掛けあう。冷静を装っているがロイは長年の関係から、ランスロットが今にもこの部屋から飛び出して行きそうなほどの焦燥を閉じ込めているのを把握していた。

神経が研ぎ澄まされている2人はもうすぐ開くだろう扉の方へ目を向けた。ランスロットはゆっくりとソファから立ち上がる。




コンコンコン

扉を叩く音の後、執事とともにネアとイーダが入室してきた。




「お待たせいたしました」

「いえ、こちらも取り急ぎの訪問に承諾を戴き感謝しております」



ネア言葉ににこやかに対応するのはロイだ。初見の対応などは常にロイに任せている。今回ソフィア家への来訪は騎士団としてのものである。....表向きは。




「失礼ですが領主殿は?」

「主人は現在傷心で床に伏せっておりまして。対応は妻であるネア・ラド・ソフィアが一任させていただきますわ」

「それは失礼いたしました」



扇子を口元で開き微笑むネアに、ロイはニコニコと対応をする。騎士団としては領主であるダダイに宛てて連絡をしたのだが、予報通り顔を見せる事は無い。危篤という事を告げないという事は、隠したいのか嘘なのか....おおよそ後者だとは思うがもしもの事があるので今のうちは静観する。もしかするとダダイにまで騎士団の訪問が上がっていない可能性もある。

その時、ネアの後ろで佇む女性に目がいった。



「ああ、この子はイーダ・ラド・ソファ、わたくしの愛娘でございます」

「御機嫌よう」


声を掛けられて淑女の礼を行う。前回の夜会であった時とは打って変わり、品のあるドレス姿。洗礼された礼を見せるイーダはチラリとランスロットの方を見た。その視線にロイは違和感を覚える。



「以前、夜会でイーダを助けてくださったそうで感謝いたしますわ」

「その節は誠にありがとうございました。お陰でひとつの傷も無く過ごさせていただいております」

「....お怪我が無かったのなら何よりです」




相変わらず無言を貫いていたランスロットだが、2人の女性からの視線にようやく声を発した。イーダはポッと頰を染めてはにかむ。瞳は恋する乙女の顔それだ。

あんな手酷い言葉を投げかけられた相手にする眼差しでは無い。....なんだか嫌な予感がする。



「今回はですね、親族であるエレーナ・ラド・ソフィア様の捜索願が出された事への聴取です」


ロイは書類をネアに手渡した。書類に目を向けたネアは目を細める。



「騎士団というのはそんなこともなさるのですね」

「はい。本来なら警務団の管轄ではあるのですが、行方不明の届け出も出したのがここにいるランスロット・リズ・ド・クレメンス...つまり第二騎士団の師団長だったもので、第二騎士団の数人が一任されました」




メニエルを含めた3人で話をしたあの時、ランスロットはすぐに警務団に行方不明者の届け出を提出した。警務団にはランスロット自らがおもむき、『冷酷仮面』の名に恥じむ高圧的な態度で第二騎士団精鋭が担うこととしたのだ。




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