第57話
ネアの言葉が脳内で反芻する。「結婚相手を見繕った」それは以前もネアの口から発さられた言葉だ。その言葉によって自分はランスロットの元へ向かったのだ。そしていま、ネアの口から再びその言葉を聞く意味がエレーナには分からなかった。
「シフォン・リス・ティール殿がおまえの夫になる人の名前です。支度をなさい」
「....どういうことですか?」
「口答えは許しません」
ぴしゃりと有無を言わせないネアにエレーナは首を横に振った。
「いいえ。わたくしはランスロット様の婚約者としてこの家を出ました。そんな事許されません。」
初めてと言っていいエレーナの口答えにネアは不機嫌さを隠す事もせず眉を寄せる。ガシャンと音を立ててカップをテーブルに置くとようやくエレーナの方へ顔を向けた。
「勘違いしないで頂戴。候補と言われてこちらに中途半端な金しか入れられない無価値な癖に。....本来ならすぐにでも追い出されてのたれ死んでいたおまえにもう一度価値をあげようとする母の優しさがわからないのか」
「......」
ネアの言葉はエレーナを呆然とさせた。自ら手放した
「まさか、ランスロット様にお金を強請っていたのですか」
「人聞きの悪いこと言わないで。あのものが勝手に毎月送ってきていただけよ」
なぜ、気づかなかったのか。エレーナをソフィア家から追い出した理由は「邪魔だから」という理由の他に「お金になりそうだから」だ。クレメンス家は代々王家に使える騎士一族の名家。ランスロット本人も第二騎士団の師団長を勤め裕福な生活をしている。そこに繋がりが出来ればあらゆる手段でお金をせびた筈だ。エレーナが「婚約者候補」として過ごす時間にネア達が口を挟まないはずがない。きっと、多額のお金を要求しただろう。彼はそれをエレーナに追求したことは一度もない。
彼はソフィア家にお金を払うことでエレーナの日常を守ってくれていたのだ。
「ランスロット様っ、、!!」
エレーナはふらりと体を揺らすと、踵を返してドアの方へ向かう。すぐにでもランスロットに会いたかった。会って謝りたかった。謝るなんて自分本位な事でしかない。でも、とにかく会って話をしたかった。しかし、ドアノブに手をかけたが鍵が閉まっているのか開くことは無い。
「逃がさないわよエレーナ」
嘲笑うネアと、クスクスと笑うイーダの声が部屋に響く。
「おまえはどこにいても金喰い虫のお荷物なのよ。これ以上私にもクレメンス家にも迷惑をかけたくないというのならわたくしに従いなさい。」
グラリと視界が歪む。立っているのがやっとだった。そうか、私は何処に行ってもこうゆう存在だった。ドアノブにかけてきた手がするりと重力に負けて離れて落ちる。ネアは勝ち誇ったように笑う。
「わたくしの言うことを聞きなさい。ソフィア家のためよ。」
再度告げられたネアの言葉に、エレーナは頷くしかなかった。
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