第55話(ちょっと短いです)



「困ったわ」



その頃エレーナは殺風景な部屋で1人小さなつぶやきを漏らしていた。

ここにはソフィア家とは違う人達に連れられてやってきた。螺旋階段をかなりの数上がったのでどこかの塔にいるらしいというのは分かっている。辛うじて部屋と呼べるこの場所にはベットが1つと窓際にテーブルと椅子があるだけで他は何もなかった。小窓から差し込む光は既に月明かりのみとなっている。ここに来てどれくらい経ったかわからないが今夜もここで一夜を過ごす事になるのは明白だった。もしかすると永遠にここで暮らすことになるかもしれないとも感じていた。



困ったと言うのは他でも無いこの状況だった。部屋から廊下に繋がる扉には鍵がかけられる音がして、扉の外には誰かが控えている様子だ。時々階段の登り下りをする足音が聞こえる。そしてもう1つ困ったことは....



チャリ...



エレーナの右足にはベットと繋がった鎖が嵌められていたのだ。




「ここまでしなくても逃げたりしないのに」



チャリチャリと足を動かすたびに鳴るため気になってしまう。でも、逃げたりはしないがここから飛び降りる可能性があると思われているのかもしれない。そう思うとまあ仕方ないかとも思うのだ。



「静かね...」



自分の声がただ響くこの空間はエレーナにとってとても寂しいものに感じられた。ソフィア家に居た頃は当たり前だった静かさだがここ半年は沢山の笑顔や声に溢れていたのだ。


クレメンス家での日々。

声を出せば控えていたティナが応えてくれる。

庭に行けばレイヴンがお花の話をしてくれる。

料理長は行ったことの無い国や領地の食べ物の話をしてくれる。

そして、優しく触れてくれるランスロット様がいてくれる。


彼らのことを思うと胸の中がほわんと暖かい気持ちになる。お別れや感謝の言葉を言えずに出てきてしまった事が何よりも悲しい。

いま思うとあの時の日々は自分が見ていた夢の世界のような気もした。




もう一度足を揺らしてチャリンという音を響かせたのち、ふうっとため息をついた。そして先刻前の事を思い出す。久しぶりにあった義母と義妹は相変わらずだった。




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