第44話


「お前らそろそろ戻らなくていいのか」



ランスロットは街中まちなかにある時計を見やる。2人に遭遇してから思った以上に時間が経っていたようだった。



「そうですね。もう少し買うものも残って居ますし、これ以上は馬に蹴られそうです」

「さっさと行け」



シッシと手ぶりで2人を追い出す。「それでは」と騎士団の礼を取って踵を返した。




「ああ、それともう一つ」



数歩離れてからピタリと止まったメニエルの足は、再びランスロットとエレーナの方は向いた。少し言葉を躊躇したあと「これは占術や勘とはまたちがう、アドバイスレベルの事なんですが」と前置きしてエレーナを見つめる。



「高い所には気をつけてください。貴方の運命を変えてしまう何かがありそうです」



曖昧な物言いに首を傾げランスロットを見上げると、思った以上に真剣な顔をしていてエレーナははっと息を詰めた。これが先ほど行っていた「勘」の一つなのかもしてないと理解できたからだ。



「わかりました。心に留めておきます」



メニエルに向き直り「ありがとうございます」と腰を折る。眼鏡をクイっと掛け直してからメニエルもにこりと笑った。



「あなたに幸おおからんことを」

「失礼します」



改めてロイとメニエルが礼を取ると今度は振り返らず人混みに紛れていった。

見えなくなるまでそれを見送った後エレーナはもう一度ランスロットに目を向けてる。





「あいつにしては随分漠然とした内容だったな」

「メニエル様はそんなに凄い能力をお持ちなのですか?」

「そうだな。内容は様々で間隔もまちまちらしいが、一度降ってきた予言は外れない」

「まぁ...」



目を丸くして感嘆の声を上げる。それは多分物凄い能力な筈だ。




「それなら高い所に注意しなくてはなりませんね」

「そうだな。.....二階にあるレナの私室を一階に移動しよう」

「え!?」



ランスロットの言葉に進み始めようとした足がピクリと止まった。それに気づかないランスロットは手を顎に乗せて深刻な顔をしながらブツブツと独り言を続ける。



「いや....高いというのは標高の事かもしれない。クレメンス家は王都に比べると高い位置にある。王都に別邸を構えるか」

「....」

「いっそ地下に穴を開けてそこに住むか」

「いや、俺の目の届かない所に行く事こそ不安だ」



どんどんランスロットの思考があらぬ方向に進んでいく。しかしエレーナにはそれを止める術が思いつかず経緯いきさつを見守るしかない。




不穏な空気を肌で感じること数秒。思考を打ち切ったと思われるランスロットが顔を上げる。顎に置いていた手を下げてエレーナの方へ振り向いた。




にっこり




「俺のそばを離れないように」





ランスロットは、エレーナが見た今までのどの笑顔よりも完成度の高い笑みを浮かべたのだった。


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