第43話



「エレーナ?」

「ふふ...すみません。でも面白くて。皆さん仲がよろしいんですね」



エレーナとランスロットの間ではありえないそのやりとりはとても新鮮でどこか楽しそうだった。これは常に信頼を置いている仕事仲間でしかできない掛け合いだ。本人たちにとってはただの言い合いで、傍から見たら喧嘩のようでヒヤヒヤするものだがエレーナにとっては少しだけ羨ましくもあり見ていて楽しい気持ちになった。



ランスロットの腕の中でクスクスと笑うエレーナ。その笑顔をみた3人の間からは殺伐とした雰囲気が瞬時に消える。




「騒がしくてすみません姫さん。この二人はいつもこんな感じなんです」

「いつもではないですよ副師団長」



にこやかに微笑むロイ。メニエルはその言葉に気まずそうに肩を竦めた。そして再びエレーナの方に向く。




「改めてメニエルです。お噂はかねがね聞いていたのでお会いできてつい興奮してしまいました。ご無礼をお許しください」

「う...噂ですか」



エレーナはギクリと体を強張らせた。以前もロイと対面したときそのような話が出ていたからだ。その噂というのは多分きっと「ランスロットの婚約者」としての事だ。しかし。



「先日師団長が騎士団の執務室に連れ込んだご令嬢がいたと。まぁ仲睦まじい様子で厩舎を後にしたと」

「それも自分の胸に抱き抱えてね」



想像していた"噂"ではなく先日の騎士団訪問の際の話だった。あの時の記憶から客観的に思い出されて、エレーナは顔を真っ赤にさせる。




「ロイ!!」

「嫌だなぁ団長。前半は俺ですが後半は他の団員の証言ですよ」

「脚色が過ぎる」

「見たままでしょう」



上司の叱咤を飄々と受け流す。ランスロットは思い当たる節があるのでグッと喉を詰まらせた。2人のやりとりを聞きながらエルメルはニコリと笑う。



「騎士団みんな総意の感想です」

「..............そうか」



追い討ちのかけられたランスロットは言い返すのも億劫になった様子で唸るように脱力した。



「まぁいい。メニエル、今後エレーナに会う機会も増えるだろうから宜しく頼む」

「承りました」



ようやく外套の中からエレーナを解放すると、頭を撫でながら告げた。それに応えるようにメニエルは胸に手を当てて騎士の礼を取った。それに習いエレーナも再び一礼をする。メニエルの眼鏡の奥の瞳が優しく細められる。



「とても素晴らしいお方ですね。芯が強くて人を敬う心をお持ちです。」



メニエルの言葉にエレーナはきょとんと首を傾げた。褒められた事は理解出来たが、心の奥底の部分に確信を持ったような台詞だった。



「姫さん。メニエルとはお近づきになっておく事をお勧めしますよ」



ロイがメニエルを横目に微笑む。



「彼の故郷は占術に長けた一族で、メニエルも例に漏れず才能があります。」

「俺はただ人より勘が鋭いだけです」

「それでも我が軍の一手には違いない」



謙遜するメニエルにランスロットまでも加担する。詳細は伏せられたが、メニエルの勘によってあらゆる危機を回避した経験があるようだった。ランスロットが真面目な顔で頷いている所をみると信用に値する存在である事がうかがえた。




「今日の献立に悩んだら是非ご一報を。師団長が食べたい物くらいは当てられますよ」

「ふふ。それは心強いです。ではその時はよろしくお願いいたしますね」



冗談めかしながらいうメニエルに親しみを感じながら、エレーナは笑顔で頷いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る