第42話



「あれ....団長?」




その時突然2人の後方からランスロットを指す言葉が聞こえた。声の方へ振り返る。そこには騎士団の制服をきて丸い眼鏡をかけた青年が目を大きく見開いて立っていた。ランスロットよりは幾分か身長が低いながら、がっしりとした体躯の男だ。髪は栗色の短髪で騎士団らしく髪先が丁寧に切りそろえられていた。




「メニエル」

「......え!?団長!!??」



ランスロットに"メニエル"と呼ばれた青年は数秒口を開けポカンとした表情を見せたのち絶叫した。エレーナの隣でランスロットがはぁっとため息をついた。



「うるさい奴に見つかった」

「すすすすすすみません団長!後ろ姿だけお見受けして挨拶をせねばと思ったのですがっ!!!まさか仮面無しの私用だとは夢にも思わず!!」

「私服だろ。私用に決まっている」

「後頭部と背丈しか把握してませんでしたぁあ!!」

「うるさいっ!!」



土下座でもするかの勢いで90度腰を折って謝罪をするメニエルにランスロットは怒鳴った。それは今まで見せていた優しい表情とは違う、職場の雰囲気だ。



「いつも言ってるが、頭を動かす前に体が動く癖どうにかしろ!」

「はっ!!」

「街中で敬礼するな!!」




喧喧囂囂と言い合いをする2人。その喧しさに近くを通る人がチラチラと様子を伺っていく始末。ランスロットにとって不本意である注目だろうと困ったエレーナだったが、自分にはどうする事も出来ないのでそのまま様子を伺うしかなかった。



「ずいぶん楽しそうな事になってますねぇ」



そんな中、この空気にそぐわない随分と間延びするような声がエレーナの隣から聞こえた。声に顔を向けるとそこには第2騎士団副団長のロイがニコニコと笑みを浮かべて2人を見ている。



「ロイ様...」

「やぁ姫さま。先日はどうも」


挨拶もそこそこにロイは「あの2人今止めますね」と2人の間に入っていった。



「なんだお前もいたのか」



ロイのお陰で口論が収まると、相変わらず嫌そうな顔をしてランスロットは二人を交互に見た。



「ええ。メニエルと物資調達と視察を兼ねて」

「.....ああ」



なるほど、と合点の言ったランスロット。近々隣国との国境付近への遠征がある。そのための諸々の調達の指示を自分が出していた。騎士団の団服を着ている所を見ると2人は職務中のようでその調達任務を遂行しているようだ。



「珍しく有給消化をした理由はこれだったんですね」

ロイが含み笑いを浮かべる。 その言葉にメニエルは首を傾げたのちランスロットに背に隠れていた少女の存在に気づいた。




「いま屋敷で預かっている令嬢だ。エレーナ、こいつはメニエル、団員だ。」

「はじめまして、メニエル様」



紹介を受けてお辞儀をする。本来なら淑女らしい礼を取るべきだが、ここは王都の市井だ。邪魔にならない程度の挨拶に留めた。挨拶をされたメニエルは目を見開き口をパクパクさせている。どうしたのかとエレーナがキョトンと首をかしげると、メニエルは勢いよくエレーナに近づき手を握った。



「ああああ貴方が噂のエレーナ嬢ですね」

「メニエル!!」



びっくりするエレーナを他所にメニエルは握った手をブンブンと勢いよく振る。見兼ねたランスロットは2人の握られた手を強引に放してそのままエレーナを抱き寄せると自らの外套の中に収めた。




「お前は馬鹿か!」

「すみません団長!つい地元の挨拶癖で」

「あっはっはっは!!師団長心狭ーい」

「うるさいぞロイ!」



むぎゅむぎゅと抱き込むランスロットに爆笑するロイ。ランスロットは「お前にだけは会いたくなかった」と睨みつけている。

そんなやりとりにエレーナは「ふふっ」と笑みをこぼした。

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