第34話
「ランスロット様これです」
「....これか」
エレーナが用意したスコーンを食べ終えて一息経ってから2人は執務室から出て庭に降りてきていた。軽食を食べている時の会話で、以前散策をしていた時に偶然目に留まった薬草を「少しだけ頂けないか」と告げたのが原因だ。「我が家の庭に薬草があるのか」と訝しげに尋ねるランスロットが見てみたいと言った事で食後のお散歩が実現した。
エレーナはお目当ての薬草を見つけて、指差して彼に告げる。彼は、仮面で見えないが、たしかにエレーナの指先を辿って目的のものに目を向けていた。
「ええ。これです。」
「構わないが、これは薬になるのか?」
その言葉に「はい」と答えてゆっくり腰を下ろした。それに習ってランスロットも隣に屈む。
「薬という程では無いですしあまり世間には知られていないのですが、この花の根には心を落ち着かせる効果のある成分が含まれているんです。根はこの花と同じ小さいものなので大量には採取できないのですが」
「あと、こちらの桃色の花は花びらがとてもいい匂いなのでお茶の香りづけにもなるんですよ」
「あ!あの植物の葉っぱはですね、」
嬉々として話をするエレーナにランスロットは頷き耳を傾ける。
「なるほど、流石ソフィア家の娘だな」
その言葉にエレーナはちょっとだけ困った顔をする。何か言いかけて口を噤み、「そんな大層な事ではないんです」と続けた。
「母が病に伏した時、父や祖父が薬学の本を沢山家に収集したんです。わたしはまだ幼かったけれど読めるようになって時間があるときに少しずつ読んでいました。でも、かといって私の知識は医療というよりかは、このような心を落ち着かせたり食欲が出るように、とかそういうものばかりなんです」
「...」
「父も祖父も沢山沢山頑張ったし、あの時のソフィア家の医療発展はめまぐるしかったと聞いています。でも父は母を助けられなかった事で自信を失ってしまいました。私の知識だけでは父の心すら救えなかった。」
エレーナは少しだけ俯いてから、パッと顔を上げる。
「でもソフィア家の医療知識が我が領土やこの国の発展に貢献して、王様、騎士団の皆さんやランスロット様のお力になれていたのだとしたら、きっとお母さまも喜んでいると思います」
そう微笑んだエレーナは少しだけ昔を懐かしんでいるようにランスロットには感じた。
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