第35話



「では、この薬草いただきますね」




しんみりとした空気を振り払うようにエレーナは少しだけ声を張りパンっと手を合わせた後その薬草に手を伸ばした。



「まて」

突然ランスロットはエレーナの手首を掴んで彼女の手を制する。きょとんとした彼女を少しだけ下がらせるとランスロットは花に目を向けた。




「根が薬になるということは土を掘るのだろう。手が汚れてしまう俺が変わろう」

「いえ!それではランスロット様の手が汚れてしまいます」

「構わん。洗えば済む」





それは自分も同じだと慌てたエレーナに首を振ってさらに制し、ランスロットは花の下の土を掘り始めた。しかし思ったよりも土に絡まれた根は容易く剥がれてくれない。





「中々手強い根なんですよね」

「....む。少し力を入れてしまうと千切れるな」



ブチッと根が切れる音が2人しか居ない静かな庭にはやけに大きく聴こえてきて、その度にランスロットはビクリと手を止める。




「ふふ。私も手伝ってもよろしいですか?」

「構わん」

「では、ランスロット様はこのまま花を持っていてくださいね」




そう言ってエレーナは、根についた土をパサパサと落としていく。絡まっていた土が剥がれていくことで抵抗力が削がれ、ようやく花を摘むことができた。





「......」

「......」





沈黙ののち2人で吹き出すようにして笑う。エレーナは口を両手で抑えて、ランスロットの目は見えないが口角が上がっていて少しだけ肩が揺れている。何がおかしいというわけではない。ただ一連の流れがとても楽しかったのだ。







「あといくつ入り用か」

「ふふ。それではいただけるならば、9つほど頑張ってもらっていいですか?」

「構わん」




そういうとランスロットは先ほどの採取した隣を茎を掴む。先ほどより慣れた手つきで土を払う。エレーナもその隣でその様子を見ながら時折手を貸した。そのおかげが短時間で11本の花を摘み終わった。どこか誇らしげな声色ですっと花をエレーナに渡す。



「これで良いだろうか」

「はい!ありがとうございます。香にできたらランスロット様に持っていってもよろしいですか?」

「......俺にか?」



エレーナの言葉にランスロットは少しだけ驚いたような声を出した。



「はい。実はティナにあげようと思っていたんです。少し眠れないようなので。でもこれなら2人分作れると思うので、もう一つはランスロット様に」

「そうか」




ランスロットは一つ小さく頷くと、ふと首を傾げてから「ふ」と小さく笑みをこぼす。そしておもむろにエレーナの口元に指を添える。




「!!」

「....土がついている」




さっき笑った時口元に手を置いたからだろう、その汚れをランスロットが袖口でそっと拭う。優しい手つきで触れるのでエレーナは身動きが取れずにされるがままになった。

少し屈んだ事でいつもより近くなる彼の顔、仮面から見えた瞳はキラリと部屋の明かりのおかげか綺麗に輝いた。





「宝石みたい...」

「...は?」




ぼそりと無意識に呟いたその言葉にピクリとランスロットの動きが停止した。





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