第15話



それから、ランスロットの仕事は再び忙しくなった。数日家を空け、突然夜中遅くに帰ってきたかと思ったら日も登らないうちに出掛けていくようだった。それに伴い、エレーナとの食事もままならなくなった。




「ちゃんとお食事はとっていらっしゃるのかしら?」

「....どうでしょう。今までの経験からして軍支給の携帯食を食べている気がしますね。」

「....ティナが言うならそうなのでしょうね」





昼前の涼しい時間帯を見計らい私とレイヴン、ティナは庭の手入れをしていた。最初こそレイヴンに拒絶された庭の手入れだが、植物のチェックから始まり、水やりを経て、最近になりようやく「厚手の手袋をはめて、危険な事は絶対にしないと誓ってくださるなら」と了承か得られらようになった。





「レイヴン、こんな感じでいいかしら」

「お上手です。あぁ!ハサミ!!ハサミを置いてください!!」




ただし、枝切りに関してはまだ不安なようでエレーナが握るたびに後ろからハラハラした目で見ている。優しくて穏やかな時間を過ごしているとバタバタと庭先の廊下が騒がしくなった。





「旦那様がお帰りになられたのでしょうか?」

「こんな時間に?」

「........いえ。どうやら騎士団の方がいらしたようです」




女2人より背が高いうえ、目が良いレイヴンが現状を伝える。そして近づいてくる騎士団と思わしき人を確認するとハッとして物陰に隠れた。





「レイヴ「レイヴン!!お前は、なに隠れてるんだ!!見えたぞ!!」....」




エレーナの戸惑った声を遮るように近づいて来た男性が声をあげてこちらに近づいて来た。名指しされたレイヴンはいつも以上に青白い顔だ。エレーナはレイヴンのその様子に心配になりつつどんどん距離を詰めてくる客人に顔を向けた。そうしてやっと男性はエレーナを視界に捉えた。




「御機嫌よう」

「これはこれは噂の姫君ですね。御機嫌麗しく」




すっと胸元に手を当ててお辞儀をする男性にエレーナはきょとんと首を傾げる。



「はじめまして。私はロイ・ハーツと申します。ランスロット師団長と同じ第二部隊で副団長をさせていただいております。姫さまはどうやらうちの愚弟とも良い関係なのですね」

「...!!?」




ロイと名乗った男性の口から出た情報に一つ一つ聞きたい事がありすぎて身動きが取れなくなる。




「エレーナ様....こちらレイヴンのお兄様です。」




ティナがフリーズしたエレーナにそっと耳打ちをする。聞き間違いでは無かったのだとティナの方を向いて頷くと、ロイに向き直り改めて淑女の礼を取った。そんなエレーナにロイは優しく笑いながら首を横に振る。




「かしこまらなくてもいいのですよエレーナ嬢。むしろ上司である師団長の妻であらせられる姫さまにおいては、私の方が礼儀を尽くすべきですね。」

「....そう思うならエレーナ様から離れろ愚兄が」

「んーー?聞こえてるぞレイヴン」




「聞こえるように言っているんだ」と眉を潜めながらエレーナと引き離すように間に入るレイヴンにはっはっは!とロイは爽やかに笑った。






聞くところによると、ロイ様はレイヴンより6つ上の兄。もともとレイヴンも騎士団に所属する予定だったのだが、性に合わない事と庭いじりが好きだった事もあり騎士見習いの過程で辞退。その後庭師の道に入った。ランスロットの屋敷に来たのはロイの口添えがあったからこそらしい。思わぬ所でレイヴンの生い立ちを知ってしまった。




「そういう訳でレイヴンは俺に頭があがらんのですよ」

「その件についてはありがたいと思ってるが、お前が無理やり騎士見習い課程に放り入れて散々だった事は今でも恨んでるからな」

「でもそのおかげで剣の腕も見込まれて庭師兼護衛って肩書きに落ち着いてるだろ。今に見てろ姫さま守る時にお前に経歴に絶対感謝するだろうなぁ」

「う....!!」




どうやらロイの方がレイヴンより1枚も2枚も上手で2人の力関係がこの短時間でよくわかった。しかしエレーナ、実はさきほどから気になっていることがある。




「あの、ロイ様」

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