第13話



「優しいだと?」

「はい。こんな私を屋敷に留まることを許可して頂いた事は勿論ですが、ここで暮らしてみてお仕事に対する姿勢から冷酷さなんて見て取れません。」



いつも真剣で国や人の事を考えている事がわかる。だからこそ自分を顧みずオーバーワークになりがちなこともわかった。



「この屋敷にいる人達に目を配っていらっしゃる事がわかります。屋敷の方達もランスロット様を敬愛していらっしゃるのがわかります。



使用人を人として扱って、何かあれば必ずお礼を告げていた所を何度もみた事も。




「ランスロット様とお話をして、冷たい物言いの中に血が通っている事がわかります。ランスロット様が言う言葉には沢山の優しさが垣間見えます。」



そう。とても優しい人だ。ちょっと不器用なだけで人を想う心がある。知れば知るほどとても世間一般の噂が間違っていると思えるほどに。



だから怖くないんです。そう言ってエレーナはまた微笑んだ。今の拙い言葉や想いが真実である事を知ってもらうために。




「あの、もっと色々なランスロット様の表情を知りたいなと思います。」

「もういい、わかった」



さらに言葉を続けようとするエレーナに、ランスロットは強めの口調でそれを制して手をそっと自分の口元に持っていく仕草をする。それは照れているように見てて、喋りすぎたかな?と戸惑った。




(...あ、あれ?)



その時少しだけランスロットに違和感を感じた。何かが足りないような、いつもと違うようなそんな違和感。





「おかしな奴だなお前は」




ランスロットがエレーナを称する時に言う一言が耳に届いた。それと同時に彼の右手が口元から離れてそっとエレーナの方にむけられる。




「来い」



その手を掴んでテラスまで上がって来いと言うのだと理解するのに数秒かかったが、慌てて近づきその手に触れる。きゅっと握られたと同時にぐいっと力強く引き寄せられた。




サァ--

風が強く吹いたと同時に、月を隠していた雲が引いて明るさを取り戻す。



後ろで束ねられた赤銅色の髪が緩やかに舞った。そして。




「....っ!!」




普段仮面で覆われて見えないはずのルビー色の瞳が月の光でキラキラと宝石のように輝いていたのだ。



なぜこんなにもはっきり瞳が見えるのか、普段つけている仮面がない事に気付いたのはどれくらい経ってからだったろうか。

それは一瞬のようにも感じたし、ずっとずっと長く見つめていたにような気がする。初めてみるランスロットの顔は、噂のように大火傷の傷があるわけでもなく醜いわけでもなかった。むしろその逆で....とても端整な顔をされていた。

冷たいと感じる声色のように、やや無表情で眉を潜めた姿はなるほど想像していた事ではあるが、目を合わせたらルビー色の瞳が周りを引きつけて動かなくしてしまうようなそんな魅力がある。



しかしそんなことは言ってられないのが今のエレーナの状況である。

エレーナは掴まれた手とは反対の手で顔を覆い、勢いよく出来る限り顔をそらす。




「申し訳ありません!!」

「は?」

「今の今まで暗くてっ!仮面を!仮面をつけていない事に気付かなくて!申し訳ありません!」




生きてきた中で1番ではないかと言うくらいに声を荒げてランスロットに告げる。そこで初めて今の現状に気づいたように彼は「ああ」と呟いた。



一瞬の沈黙....そして





「ふ」




「ふはははははは!!!」





今までに聞いたことのないような豪快な笑いが月夜に照らされた庭に響いたのだった。さらにそれはランスロットにとって大層ツボだったらしく思ったよりも長く続いたのだった。













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