第12話


ある日の夜、夕食を食べ終えたエレーナは中庭を散策していた。



目的は2つ。1つは昼間に見つけた花をしっかりと見るため。そしてもう1つは綺麗な満月だったからだ。ソフィア家にいた頃は出歩くこともままならなかったので綺麗な星空の時はベランダからお月見をするのが密かな楽しみだった。






ふと目的の空を見上げると、先ほどには無かった雲が少しずつ増えていてうっすらと綺麗な空を隠してしまっていた。





「困ったわ...これでは花を探せない」




やはりレイヴンに話を聞くか、ティナに言われたように灯りを持ってくるべきだったと思う。満月の光がとても明るかったので見えるものだと過信してしまった自分が悪かったのだが。




幸運にも肌寒さは感じないので月がまた見えてくるのを待つつもりで、中庭のテラスに向かった。




そこでふと気づく。

テラスの椅子に座る影があることに。




「...ランスロット様だわ」




月明かりも少ないため気付くのが遅れてしまったが、たしかにあの背格好はランスロットだ。何をしているのか後ろ姿ではわからない。もしかしたら夜風に当たって寝ているのかもしれない。仕事でお疲れのひと休憩中であったら迷惑になるのではないか。色々考えが頭を過ぎり思わず足を止めた。




しかしどうやら近づき過ぎた。人の存在を察知したのかランスロットはすっと顔を上げるとこちらを振りむいたのだ。




「....ああ、お前か。」

「....申し訳ありません!お邪魔をしました」



慌てて淑女の礼を取るエレーナに、ランスロットは「構わん」と手を振る。




「少し晩酌をしていただけだ。」



その言葉で、テーブルにはワインボトルが置いてある事に気づく。




「今日は月が綺麗ですものね」

「今は隠れているがな」




ランスロットが空を仰ぐ気配がしエレーナも同じように顔をあげる。たしかにまだ雲は月見酒を拒むように月を隠していた。





「...あの、月が見えるまでご一緒してもよろしいですか?」




エレーナの言葉にランスロットはピクリと肩を揺らした。そして沈黙が流れたことでエレーナはサーと血の気が引いていくのがわかった。

無意識に出た言葉だったのだが、一人でいたいところに自分が入って隣で喋り出したら休まるものも休まらない。そうでなくても居候をさせて貰っている身だ。でしゃばった事を言った自分が凄く恥ずかしい。



ただふと思ったのは時々過ごしている二人で食べるディナーはとても居心地が良くて、楽しくて、その時間が頭をよぎったのだった。






「お前は俺が怖くないのか?」




夜風と共にランスロットの低い声がエレーナの元に届いた。




「....怖い?」

「世間一般では、俺は冷酷無比の変人仮面男だ」



くっくっと低い笑いを浮かべながらランスロットはコクリと酒を煽った。エレーナはゆっくりと思考を巡らす。そして。




「この屋敷に足を踏み入れて初めてお会いした時は怖かったです。」

「...そうか」

「でも今は、とても優しい方だなと思っております」





エレーナはまっすぐランスロットの方を向いて微笑んだ。









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