第21話



ランスロットが連れてきたのは騎士団と屋敷の間にある王都の本通りだった。ロイに連れられてた時も通った気がするが、その時は馬車だったので勿論素通りだ。窓から見えた活気ある風景はエレーナにとってそれは興味を惹かれるものだった。現在日が落ちているため日中より人通りは少なかったが、それでもエレーナにとって「人がたくさんいる場所」は初めてだった。



本通り近くの厩舎に入るとランスロットは慣れた手つきで馬番に金貨を渡しひらりとシャリエットから降りた。馬番の胸元には騎士団御用達の証であるバッジが付いていたので多分馴染みの場所なのだろう。その御蔭か仮面姿のランスロットを見てもニコニコと笑顔を絶やさない馬番は流石である。

ランスロットは一言二言馬番と言葉を交わすとエレーナに向き直り手を差し出した。「手を取れ」というか合図だと言うことはこれまでの経験からわかっていたのでエレーナは言われるがまま手を差し出す。シャリエットに乗った時のように手を引っ張られ今度は首元に腕を促される形になる。グイッと引っ張られたかと思うとそのまま赤子のように抱き抱えられてしまった。



「....っ!!!」

言葉にならないエレーナをよそに、ランスロットはスタスタとそのまま歩き始める。






「ここは少し道が悪い。このまま進む」



外套のフードをすっぽりと被った大の男が、小柄な女を抱き上げ歩く姿はやはり目立つようで、比較的人通りの少ない道だと言っても注目を浴びた。いたたまれず顔を隠すように下を向いたエレーナだったが、ランスロットはどこ吹く風と飄々としていた。



「ああそうだ。仮面を取ってくれ」

「え!?」


突然の申し出にぎょっとするエレーナ。に「いま手がふさがっている」と事もなさげに付け加えられた。



「よろしいのですか?」



仮面を外せば色々な人にランスロットの顔を見せてしまう事になる。それが嫌で仮面をつけているのでは無かっただろうか。そう意味を込めて聞くと、ランスロットは「ああ」と合点がいったように頷いた。



「フードを被っていようが仮面が見えてしまえば俺が"ランスロット・リズ・ド・クレメンス"だと触れ回っているような物だ。こういった場ではむしろ取ってしまえば紛れこめる。この顔は誰も知らない。うってつけの隠れ蓑だ」

「なるほど...」



そういう事ならと、抱き上げられているためちょうど手の届く場所に仮面がある。人の流れが途絶えた所を見計らってそっと仮面を外した。



あの夜にみた、ルビーのような瞳がエレーナを捉えた。しかしギラリと獲物を見定めたようなあの夜とは少し違う、熱を持つその瞳はエレーナをどきまきさせるのには十分だった。





「..........今夜もとてもお綺麗です、ね」

「...ふはっ!」




なけなしのお世辞はランスロットに見事にヒットした。

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