第19話
「これで一区切りつきましたね師団長」
「そうだな」
「やっぱり息抜きって大切ですねぇ」
2つ目の発言には無視することにしたランスロットは、ガリっと心なしか強い圧力で筆を持って書類にサインをした。それに気づいたであろうロイはニコニコといやらしい笑みを浮かべる。その笑みは無視できなかった。
「....これ以上無駄口を叩いたら、明日にでも地方に飛ばす」
「そんな事言って俺が居ないと中々大変だったくせに」
「.....」
次の無視は肯定の意になってしまったが、それと同時にコンコンコンと執務室と給水室を隔てる扉が叩く音がしたため会話は一旦打ち切りとなった。
「お二人ともお疲れ様でした。ハーブティを入れたのでどうぞ」
「ありがとうございます姫さん」
「...助かる」
この執務室には来客者が来た時にすぐ対応できるように給水室が備わっている。もとより変人仮面のいる部屋で長居をする強者はほとんどおらず、出入りする機会はないのだが、エレーナはランスロットの仕事が終わるまでの間、本を読んだりここを使用してお茶を出したりしていた。
「美味しいです。姫さんはお茶を入れるのも上手ですね」
「ありがとうございます」
遅めの昼食をランスロットが食べて少し経った頃やってきたロイは、「はいやりますよ〜」と軽い口調で居ながらも手早く仕事をこなしていった。ランスロットと2人、その無駄のない仕事さばきは、あまり「仕事場」に居たことのないエレーナにとっては目まぐるしく関心するものだった。そしてロイはその屈託のない笑みと会話力であっという間にエレーナと打ち解けたのだった。
「すみません。私が居たことで迷惑にはなりませんでしたか?」
「大丈夫ですよ。極秘事項はもう処理積みでしたので、聞かれて困るような事はありません。」
その言葉を聞いて胸を撫で下ろすエレーナ。第2騎士団の、さらには師団長の執務室に居座るなんて本来ならできない。どんな機密事案が駆け巡っているかわからないからだ。いくら世間知らずだとしてもそれくらいの知識は持ち合わせて居たエレーナは昼食が終わってすぐにお暇しようとしたのだが、「俺の仕事が終わるまでまっていろ」と家主であるランスロットに言いくるめられてしまったのだった。
「これで終わりだ。帰る」
トンっと机に散らばって居た書類を整理するとランスロットはバサリとそれをロイに手渡しエレーナがいれたお茶を飲み干しながら立ち上がった。「お疲れ様でした」とロイはランスロットに敬礼をした。「帰る」という言葉を聞いてエレーナも慌てて立ち上がる。
「あ、そういえば師団長」
「なんだ」
壁掛けに掛けてあった外套を纏いながら鬱陶しそうに返事をする。
「殿下主催の夜会の件、エレーナ様に頼みましたか?」
「夜会?」
ロイの言葉にピタリと動きを止める。首を傾げたのはエレーナだったが、ランスロットはそれすらも無視すると判断したのかすぐに動き出して、無言のままエレーナにも紺色の外套を被せた。
「外は冷える。周りの目も五月蝿いだろうから着ておけ」
「あ、ありがとうございます」
ランスロットの仕草にびっくりしながらもお礼を言うと、彼は口角を少しだけあげ頷いた。
「うわ、何その顔!!」
「外に出るまでも無くうるさい」
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