第8話




「随分と旦那さまと打ち解けられましたね」

「...そうかしら?」




「そうですよ!」と力強く言うのはソフィア付の侍女ティナだ。ティナ以外に5人ほど挨拶にきたのだが、基本的に自分の事は自分でできるし居候だと思っているので丁重にお断りした。ティナに関しても断りを入れたのだが「これから私どもが必要になりますわ」「旦那様に怒られます」と押し切られてしまい現在に至る。専ら日中はエレーナも屋敷の事を手伝っているのでティナも同じように過ごしている。お手伝いのサポートという感じだ。「お嬢さまを着飾りたい」と嘆いているのを苦笑いをしながら受け流すのも一苦労だったりする。



話が逸れたが、エレーナ自身「ランスロットと打ち解けた」という理由がこれと言って思いつかない。




「でもあのあと一度お会いした時は、すれ違いざまに鼻で笑われただけだったわ」




そう、あの夜の交流から数日後屋敷であった時は会話も無く笑われただけだった。多分あの「能面仮面」のくだりを思い出したのだろうと思ったそこまますれ違った。





「良いですかお嬢さま。これまで旦那様が婚約者候補として訪れた女性とお話しをした事なんてありませんでした。勿論、お嬢さま達もすぐにお帰りになられるか、お部屋から出ないで泣いていて、その後引き取られていく事がほとんどでしたが、それ以前に旦那さまは常に無関心で放置されていました。会話をした事もそうですが、笑うなんて前代未聞です。さらに言うならば侍女を5人も付けられる事だって異例なんですよ。」

「ティナ落ち着いて...」




やや興奮気味に言うティナに苦笑いを浮かべながらそうなのかと思いを巡らせた。確かに初めてお会いした時は噂通りの仮面姿にはびっくりしたし、言い方は粗雑だったけれど、立ち振る舞いや姿勢から怖さは感じなかった。むしろエレーナを助けてくれたようなもので感謝すらしている。

屋敷の人達も生き生きと仕事をこなしているところを見ると多分良い主なのだと思えた。だからこそ思うのだ。




「こちらに来られたっていう婚約者さん達も、もっとランスロットさまとお話しをされたら良かったのに。きっと優しい方だとわかって良い良縁に恵まれたはずだわ」

「お嬢さま...」

「彼の"特別"になれる人はきっと幸せだわ」




優しく微笑むエレーナにティナはむぐっとおし黙る。



この家に従事しているものは皆、ランスロットの優しさや尊敬に値する人物である事は理解している。しかし、それは長年勤めてきた結果があってこそだ。

「変人」と言われた人物に対面した時、すぐに相手を手放しで「怖くない」と思えるかはまた別の話だと。だからこそ彼女がここにやってきて彼と対峙した時に臆することなく意見を口にした事はきっとランスロット自身驚いたに違いない。



だからこそ思うのだ。優しくて不器用な大切な主の幸せを心から願う使用人達にとって、彼女は彼の心の希望になり得るかもと。





「お嬢様!私達はお嬢様を応援してますわ!」

「え!?ええ、、ありがとう」

「ここで!1つお願いがございまして」




改めて気合をいれたティナは、グッとエレーナの手を取る。





「旦那様の食生活改善計画を実行致しましょう!!」



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