第3話




「どうぞ、ソフィア様、お待ちしておりました」




扉をたたき名前を告げたのち、にこやかな笑顔で出迎えてくれたのは、"テイラー"と名乗る筆頭執事だった。



(よかった。優しそうな人)




ソフィア家では使用人全員が継母に言いつけられてエレーナに無表情で接するため、久しぶりに向けられた笑顔に少しだけ胸が熱くなった。




「ランスロット様は、現在執務室にいらっしゃいますのでご案内致しますね。」

「ありがとうございます。」




そう言って階段を登るテイラーに従って歩いていく。庭から廊下、壁に至るまで全て丁寧に磨き上げられたこの屋敷は、厳かで落ち着いた雰囲気の中、エレーナを迎えいれてくれた。





「とても、ステキなお屋敷ですね。」

「ありがとうございます。ここはランスロット様を主とするお屋敷となっていまして、使用人も必要最小限となっているのです。」



「静かでしょう?」と笑うテイラーさんだったが、ここの生活がとても気に入っているようなそんな印象を受けた。

会話をしながら進むうちに、テイラーが大きな扉の前で立ち止まる。ここが執務室───そしてランスロットがいるであろうお部屋だとわかり、エレーナはそっと背筋を伸ばした。






コンコンコン。

「旦那様、ソフィア嬢をお連れしました。」

「────入れ」





中からの応答に「失礼します」とテイラーが扉を開ける。

その先は、大きい窓から光が差し込む明るい部屋が広がっていた。置かれている物は必要最低限だったが、その調度品や壁掛けに至るまで品のあるもので揃えられていてとても清潔感があった。

そして、目の前にある長机には、その部屋の清潔感を払拭するように、山のように書類が積み上げられていてた。その間には、噂通り───顔に仮面をつけた赤銅色の髪をした男性が座っていたのだった。






「こちらエレーナ様です」

「は、はじめまして。エレーナ・ラド・ソフィアと申します」

「ああ」



テイラーの紹介で、エレーナは最上級の礼をとる。そんなエレーナを一瞥する動きすらなく男....ランスロットは返事をするのみだった。







「........」

「........」

「........」






誰も喋らない中、エレーナは結婚の話が舞い降りてから何度目かわからない溜息を心の中でつくのだった。





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