第4章5話

 意識を取り戻した時、僕の目に映ったのはエッセの光景ではない。僕の目に映ったのは、迷彩服に身を包む箕輪であった。


「お、やっと起きた。望月さん! 籠坂さんが目を覚ましました!」


 側にいた箕輪がそう叫ぶ。僕は上体を起こし、辺りを見渡した。どうやら僕は、自衛隊のテントに用意されたベッドの上で意識を取り戻したらしい。


 テントの中を忙しく動き回る自衛隊員たちは、戦闘という仕事は終えながらも、今はそれ以外の仕事に追われているようだ。望月もその中の一員ではあったようだが、彼女は箕輪に呼ばれ僕のもとにやってくる。


「籠坂くん、気分は……悪くなさそうね。いきなり倒れて眠っちゃうから、少し驚いたわ」


「すみません、心配かけちゃって」


 苦笑いを浮かべる望月と、呆れたようにため息をつく箕輪。

 ただの一高校生に戻った僕は、テントの隙間からのぞく外の景色を眺めた。リィーラが魔王と戦った荒川の戦場には、エッセやメディウムの痕跡は少しも残っていない。そこはまさしく、地球の光景だ。僕は夢から覚めたのだ。


 外を眺めしばらく黙っていると、望月は苦笑いを浮かべたまま、僕に聞いてくる。


「リィーラちゃんのこと、聞かないの?」


 不思議そうな表情をする望月の疑問に、僕はすぐに答えた。


「聞かなくても、リィーラがどうなったかは分かっています。リィーラはもう地球にはいない。だけど、きっとリィーラは、エッセでいつも通りを過ごしているはず。それだけで十分です」


 僕がエッセを救ったことで、リィーラは両親とともに、これからもウェスペルでのいつも通りを過ごしていくのだろう。リィーラが地球を救ったおかげで、僕がコピーされた毎日に戻ろうとしているように。


 君がいつも通りを過ごせれば、それだけで十分。これが僕とリィーラの願い。そして僕らの願いは、二度と君と出会えなくなるという代償を払い、叶ったのだ。けれども、どうしてだろう。今の僕は、遥か彼方の君と、まだ繋がっているような気がしていた。

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