第438話 PCR検査、保険適用になりました!
実際に具合が悪かったのと、濃厚接触者になった旨、問診票に書いたのが考慮対象になったのかなと。
フェイスフィルターを付けた女性スタッフがいろいろ親切にしてくれた。
いたれりつくせりなんだけど、わたくしはのどが渇いて炭酸水をうっかり検査前に飲んでしまった。
十分後に検査を開始してくださいというから、時計を持っていませんというと、「スマホ」自体を持っていないことにやや驚かれたもよう。
「ちょっと待ってください、のどが渇くので炭酸を飲んでから十分待ちます」
と都合のいいことを提案。
でも、聞いてくれた。
わたくしがペットボトルの透明な液を飲んでしまうのを確認したのち、タイマーを持ってきてくれた。
残り八分と何十秒かくらいになったとき、男の人が来て長いすの隣を勧められていた。
わたくしと同じメモリのついたシリンダーを渡されて、検査の仕方を教わっている。
女性スタッフは懇切丁寧に、「メモリまでたまったら、ここへ入れてインターフォンを鳴らして、お名前を言ってください」と。
男性は足踏みペダルのついた四角い缶の中を見せてもらっていた。
わたくしもちらりと横目で見たが、紙コップがならんでいた。
多分おそらくだけど、その中にシリンダーを入れるのだろう。
わたくしのタイマーはまだまだ。
男性はこちらに背を向けながら、シリンダーを手のひらで包んでいた。
人の唾ってどんなものなのか、残念ながらわからない。
男性はたまった唾を女性スタッフに見せて「これくらいでいいですかね」と聞いていた。
「これくらいあれば十分です」
律儀なスタッフの一言に、缶のペダルを踏む男性。
観察対象がいなくなり、退屈になる。
柵の角に設置された長いすの前には、梅干しとレモンの写真が貼られてある。
さらに、よく見ると唾液の出るツボの説明が三種くらい図入りで書いてあった。
おせわになります。
タイマーがゼロになってブザーが鳴るまで、後ろのやりとりを聞いていた。
「**さん、これはまじめに答えてください。大切なことです」
と、説得口調が聴こえた。
どうやら、検査に来た不真面目な男性が叱られてるもようだった。
そんなふとどきものも検査に来るのだなあ、と若干妙な気分。
無理やり誰かに強いられてしかたなく来たのか、裏に事情があるのか知らないが、命がけの仕事をしている人を前にふざけちゃいかんよ。
唾を入れる容器は、ストローでも使うのかと思ってたのに、直接たらたらと流し入れると聞いてぎょっとしたが、たまったので缶の黒いペダルを踏む。
さきほどの男性の唾と、わたくしの唾は同じ色をしていた。
米のとぎ汁みたいな。
言われた通りパーテーションの中に戻ると、意外なことにトレイを持ってきた女性スタッフが「(いくら)です」と言う。
え! ちょっと待ってくださいよ。
「PCR検査って二万円くらいするって聞いてきたんですけど」
でも、「先生が保険適用と……」えええ? でも、ま、それは、助かります、はい、ありがとう。
というわけで近くでお昼を買って食べました。
タクシーで来たのでタクシーで帰りたいのだと入り口の男性スタッフに告げると、またパーテーションの中を勧められる。
外では寒いから助かります。
スタッフさんがタクシーをスマホで呼んでくれた! わぁ!
ありがとうございまあす!
助かりました。
ぺこりぺこり。
タクシーのドアを支えてくれる運転士さんにも「よろしくお願いいたします」とぺこり。
座席に座ると、液晶パネルが前面についていて、GOタクシーのCMが流れる。
来た時と同じタイミングで聞いてみたら、「無線」と「アプリ」両方で仕事なすってるらしい。
PAYのポイント支払いもできるらしいから、最先端だ。
ところでなぜか運転席の後ろに貼ってある自己紹介文に、趣味:カメの飼育とあったので話を聞く。
そのカメはミドリガメで、祭りの時に買ったらしい。
それからうん十年。
ちっちゃかったミドリガメは今では立派に育ち、カメの餌をパクパク食べる、直径50センチくらいの大きなサイズに育ったらしい。
これがお利口で、飼い主さんが見えると寄ってくるのだそうだ。
かわいいですね、かしこいですね。
そんな風に言っていたら、家の前までたどり着いた。
行きと同じ料金、支払う。
基本乗ったときの料金が350円と500円で違うのだけど、この差はなんだろうか。
帰りの方が手厚く感じた。
母が予約してくれたタクシーより、病院のスタッフさんが呼んでくれたタクシーの方が心地よかった。
口調も変じゃなかった。
母、お金を払うなら安心のために、だよ!?!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます