第435話 祖母、現実を見る
祖母、一つの部屋で過ごすせいか、おなかが空かないらしくて、朝ごはんを食べません。
わたくしが二階から降りてくると、階段の下に座り込んでいます。
おかしいな。
どうしてそんなところにいるんだろう。
素朴に思いました。
「二階に行きたいと思って」
いや、気持ちはわかります。
ひなたぼっこがしたいんだよね? 残念だけど今日は曇ってる。
一階の部屋は朝陽が入るから、そちらの方がよっぽど明るいよ。
「私、のぼらせてあげることはできないよ」
と言ったら、
「できる」
とほほ笑む。
待って待って? どこからくるのその信頼。
悪いけどわたくし虚弱児だったから、握力が17キロしかないんです。
おまけに座りっぱなしの授業のせいで、腰が痛い。
「お尻があがらんとたい」
って言いますけれどね? そんなの持ち上げて二階まで運べるわけがないでしょう。
階段は狭いし、一緒に転げ落ちて頭を打つのが目に見えてる。
「二階へ行くのは無理だから、一階で過ごして」
というのに、祖母は階段の下にじっとして動かない。
なにかを待ってるみたいだ。
母のことを待ってるのかな。
仕事でいないのに。
ともあれ、寒いのでわたくしは部屋に戻ります。
どんなに促しても、「二階へ行きたい」の一点張りなので諦めてくれるのを待つことにした。
午後、昼休みを抜けて母が祖母を見に来た。
そのときには祖母は部屋に戻っていて、わたくしの見ている前で朝ごはんを食べていた。
動かないからおなかが空かないのだろうな。
朝ごはんをお昼に食べていた。
おそらく、わたくしが部屋に来るのを待っていたのだろう。
自分のお昼ご飯に用意された塩結びを、「あたのだろ」って指さす。
ちがうよ、これはおばあちゃんのお昼ご飯! って言ったらば、そうね、と言って朝ごはんを食べたのだ。
そりゃもう、もりもりと。
おなか、空いてたんだね。
で、夕飯は食べない、と。
母が帰ってきたころ、祖母はベッドにこもって出てこなかった。
メンタル面でなにかケアなど必要なんだろうか。
階段をのぼれなかったのがショックだったのだろうか。
それとも、母の言う通り、二階になにかをとりに行きたいのだろうか。
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