第340話 R.F.さまへ2
R.F.さま
わたくしが過去に読んだ統計だと、人間は5歳までに自分の運命を決めるそうです。
親の役割はそれ以前が大切だと言うことでしょう。
ミルクを与え、おむつを替え、風呂にいれて絵本を読み聞かせ、寝かしつけてやり、ふれあうことで、子供はコミュニケーションを学びます。
しかし、5歳児の理性、という言葉がある通り子供は叱られるのを承知で衝動を抑えられない時期があります。
合理的、客観的に見てどうしても理屈に合わないことをしてしまうのです。
「だめよ、**そんなことしては」と親の言動をまねながら、タマゴを床に落として割る、ティッシュを箱から全部引き出してしまう、など。
それも発展途上のために起こることです。
そういうのをですね、自分の考えを持ってる、と本気で思いますか?
見守る、ではなく放置してきたのではありませんか。
かわいがって褒めろなどと申しておりません。わたくしなどは親にだけは褒められたことがなかった。
父が「子供を褒めてくれるな」と周囲に言い渡していたからです。
TVを観ることも禁じられておりましたし、おもちゃもお菓子も、ほとんどあたえられたことがありませんでしたし、映画、遊園地、サーカス、動物園、海外留学なども一回ずつくらいしかない。
2歳のときからの記憶があるので間違いありません。そんなわたくしが、友達と仲良くなんてやれると思いますか? 駄菓子は買わない、アイドルの下敷きなんて見たことない、存在も知らない、そんな子が社会の縮図の中でうまくやっていけると思いますか。
孤独だった。
父の背広から出てきた小銭をこっそりためて、漫画を買うのが楽しみなくらいでしたから。
そして、いつもお腹をすかせていた。
父母が共働きだったから、0歳から保育園に預けられ、母親の素顔もろくに思い浮かべることができない(母は化粧をすると別人で)。
悪いことをしたのでもないのに、気に障ったからと言って冬の玄関の外にはだしでおん出され、近所中を駆け回って助けを求めたけれど、家に連絡されてまた同じようにされたのを思い出します。
妹は父に怪我までさせられていましたし、わたくしも朝目覚めると覚えのない青あざが腕や足に出来ていました。
そういうのを指導だとあなたはおっしゃるのか。
不必要な体罰を。
男女同権は社会のゆがみをつくりましたよ。
父はわたくしを男として育てましたし、わたくし自身も女性性をうけいれられませんし、母性は捨てました。
年上の男性には嫌悪感を覚えます。
自分がなにもかも偉いと思っているからですね。
人間の特性として、優しさをもっていないのはダメだと思います。
校内暴力? 知りません。上の世代は相当だったらしいですが、わたくしの頃には言い伝えのようになっており、校律違反も恰好だけで性格はおとなしい、なんて言われていましたよ。
そういう子たちは多くはシングル家庭か、家庭内での教育がなってないと感じましたね。
小学生なのに家で友人と集まってタバコを吸うとか、ビールを飲んでるとか。
ただ、そういう子でも、親を思う気持ちはあって、けっして親が悪いなどとは言いませんでした。
家庭内でいろいろあるけれども、それは「自分にとって普通」という受け止め方です。
誰一人、親を責める子はいなかった。
でも、寂しかったんではないかと勝手に思っておりますよ。
自分が孤独だったせいかもしれませんがね。
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水木レナ
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