第76話 2019・10・22(火)スコちゃんマジですか
今日は雨の中、Olympicに猫トイレとトイレ砂(と、足ふきマット)を買いに行った。
母が、たくさんある猫砂のパッケージを見て、
「トイレに流せるって書いてある!」
としきりに言う。
あのねー。
以前猫のうんちでトイレがつまって便器二基、変えたでしょう。
猫糞は粘土質で、水に溶けないから水洗トイレが壊れてしまうのだ。
母がそう言ったハズなのに、すっかりと忘れている。
それより、猫のトイレ砂には気をつけねば。
いろいろあるし値段もそれぞれだった。
シリカ(一か月間放置しても臭くならない)製とか、パインチップ製とか、緑茶成分配合とか、ヒノキ製とか、ほんとにさまざま。
結局、脱臭効果のある炭製のものにした。
わたくしは、スコちゃんにトイレ砂で病気になってほしくなかったし、固まる砂を口につけたり、お腹に入れてしまってどうにかなってしまったらと心配だった。
食べ物にすら神経質になっているというのに、母は、レジへ来ると個別包装の袋がたくさん入ったかごをさして、
「試供品だって!(=タダだと言いたいらしい)」
と手に取っているから、わたくし言った。
「(ここで買った)フードを食べてくれなくて困ってるのに!」
と。
今朝与えたササミの他は、成長後期子猫用フードをまったく口にしなくなってしまった、わたくしのスコちゃん。
「試供品、食べてくれるかもよ」
また、母が無責任にも言い放った。
ただでさえ、赤ちゃんで胃腸が弱いのだよ?
ペットショップのおじさんも言っていた。
『軟便のときは、ササミを裂いたものをやったり、フードをお湯や水でふやかしたものを』
与えるといいって。(ていうか、軟便ならあげないほうがむしろいい、とも)
母も、赤ちゃんなんだから柔らかいほうがいいのでは、というから、出かける前にためしにフードに水をかけてきた。
まだ、食べてくれたか、わからなかった。
だから、わたくしはしきりと「試供品」を勧める母に、何度も言った。
「(スコちゃんは)まだ赤ちゃんだから、変なもの食べさせられない!」
と。
お店の人の前で、なんちゅうことを言うのだ。
仮にも、メンバーズカードを作った矢先に、その店で扱うフードを変なものとは。
しかし、わたくしのほうにも言い分はあった。
「4Dミート」なる廃材処分肉がペットフードに使われていることがあるらしいこと。
それはおそらく、成分表示には書かれていまい。
だから、スコちゃんには与えられないし、あげたくなかった。
成長期に変なもの(=何を与えたか、飼い主が全然わからないもの)はあげたくない。
人間の赤ちゃんにはちみつを食べさせられないのと同じなのだと主張した。
そして、お子さんをもった方ならばわかってくださるかもしれないと期待してここに書くが、自分の大事な赤ちゃんに、危険を及ぼす全てのものを排除しなければと思った。
母性本能である。
いつか、捨てると決めた、わたくしのなけなしの本能。
スコちゃんの体に、(将来的にも)どう作用するかわからない食べ物を与えたくないのだ。
鶏ササミだって、どこの肉でもいいというわけではないのに。
わたくしの声は知らず、キンキンととがっていた。
しかし、それで当たり前なんである。
わたくしが抱えているスコちゃんは、人間より寿命が短くて。
でも、長生きさせるためだけに避妊して、成長を止めるのもかわいそうで。
再来月の避妊手術も、どうするか真剣に悩んだくらいなのに、変なものを与えて寿命を縮めたくない。
スコちゃんはわたくしが守るんだ。
できうる限り、長生きさせてやるんだ。
そう決意して、家に戻ると、スコちゃんの声がする。
わたくしの帰宅に気づいて鳴いている。
新しい猫トイレに砂を入れ、ついでに猫草をのっけて、マットを用意してドアを開けた。
ばびゅーん!
スコちゃんはわたくしを無視して、廊下に飛び出してきた。
甘い香りがして、子猫の糞尿が、ペットシーツに包まれてトイレに入っていた。
なんのことはない。
スコちゃんはちゃんとトイレを憶えててくれたし、糞尿、ちゃんとしてくれた。
よかった。
でも、おトイレは新しく買ってきてしまったし。
位置は同じでいいから、古いのと取り換えた。
そして、トイレに入れてあげたらば、きょとーんとしている。
もともと、スコティッシュフォールドってそういう顔なのだけど、明らかに
「これはなに、どういうこと?」
っていう表情だった。
エサ入れのそばに猫草を置いてやったら匂いを嗅いでいた。
ふやかしたフード、食べてくれている! やった。
ようし、今日の任務は完了。
スコちゃんを長生きさせるぞー。
って、ベッドに横たわって、スコちゃんの食事シーンを眺めていたら、不意にスコちゃんが飛び上がってきて、わたくしの口にフードがついた口を押し付けてきた。
なにがなんだか、わからなかった。
まるでキスみたいだったぞ。
感謝の口づけ? まさかね……でもなんか、にやける。
昼食にグレープフルーツと豆腐を食べながら母に話すと、へらっと笑って返してきた。
この幸せがわからないと見える。
かわいそうな母。
スコティッシュフォールドは、スコットランドのフォールドっていう意味なのか、フォールドってなんなのか、母がしきりと聞いてくる。
ググった知識で答えると、田舎で発見された折れ耳の野良猫を保護したら、それがメスであり、子を産んだ。
その子猫の中に折れ耳がいたので、遺伝的な特徴なのだと認められ、アメリカンショートヘアやブリティッシュショートヘアなどとかけ合わされるようになった血種なのだと説明した。
正直フォールドってなんだか知らない。
母は英語教師だったから、単語の意味を知りたがる。
フォールドという土地の名前からきてるのか、フォールドさんにちなんでいるのか、とか……。
少なくとも一回ググってわかった以上の知識はわたくしにはない。
スコティッシュフォールドが唯一他種とかけ合わせが認められている血種であり、長毛種は希少であり、折れ耳同士の交配では内臓異常や骨に異常がでやすく避けられること、それくらいだ。
うちのスコちゃんは立ち耳なので、遺伝的な病気には強い、はずである。
スコちゃんの後脚が面白いことも話した。
見せてあげたいくらいだが、母は興味ないみたい。
でも、写真に撮ってあげたら、びっくりしそう。
なんにも知識がないと、驚くよ。
ああ、スコちゃんと過ごせるなんて、なんてわたくしは幸せなのだろう。
でも、スコちゃん少し退屈してるみたいだから、今度おもちゃを買ってあげようかな。
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