第31話慶事と禍事

 従弟が十一年来の恋人と結婚し、家族が結婚式へ行ってきた。

 ちょうどこないだの大安の日だったと思う。

 夜になり始めた頃、我が家の電話は留守電にしてあったのだけれど、連絡があった。わたくしは夜中の電話なんてと思って出なかったし、相手も留守録にはメッセージしなかった。

 ところが!

 どうやらそれが妹宅からだったらしくて。

 のちに妹の息子K君が骨折したっていうから、言葉を無くす。

 さっそく甥っ子Kくんの好物の種なしぶどう三種盛り合わせをスーパーで調達し、お見舞いに行く。

 すると、タオルで左腕を支えたKくんが、いつもの顔で出てきた。

 そのときはだいぶ落ち着いてるようで安心したが、当節は「骨が折れたー」と泣き叫んでいたそうで、まずは110番して、119へおかけくださいと言われて救急病院へ救急搬送された。

 妹の話を聞くと、パキッとかボキッとか音がしたんだろうけれど、本人はあまりの衝撃に記憶が飛んでしまったらしい。

 何をしていたかというと、いつものように、ソファの上にクッションを積み上げ、トランポリンのようにとびはねていたという。

 そして落下。ボキッ!「骨がー」妹慌てて110番。という流れらしい。


 救急病院へ行ったらば、待合室では同じくらいの男の子が骨折でギャン泣きし、老婦人が肩を粉砕骨折して佇んでいたそう。

 Kくんは外側から骨の位置をがちゃがちゃされる(骨の位置を直してる)ので声の限りに泣き叫び、妹はレントゲンを見てまずはスマホにパシャリ。

「先生、これ私が見ても折れてるってわかります! って感じだった!」

 といって見せてくれたのだけれども、母は両手で顔を覆ってしまった。わたくしもよこからスマホをさらってじっくり見た。きれいに折れていた。幸い、組織にも神経にも損傷は見られず、後遺症はなさそうだ、という話だ。

 しかしなあ、骨がいっちゃって腕がプランプランしてしまっているのが、レントゲンにしっかり表れている。

 わたくし言葉もなかったのだが、Kくん、お兄ちゃんの居ぬ間にママに絵本を読んでもらってる。

 やがてお兄ちゃんのY君が帰ってきて……。


「虹が出てたよ!」

 とYくんは言った。

「え! 本当!? 見にゆく!!!」

 と席を立ち、玄関先へ行ったらば、Kくんもついてきて、虹を見る、という。

 二人で玄関のドアを開けたらば、すぐ左手に見える空にかわいい(他に表現が見つからない)虹が見えた。

 Kくんが駐車場をさして「あっちへ行って見よう」というので行く。

 東の空に、雲の合間から地平にかけて虹がかかっている。

 ファンタジー……。

 虹って願掛けすると叶うんだっけか?

 それなら、Kくんのケガがよくなりますように、と願掛けすればよかった。

 前を歩いて玄関へ戻っていくKくんの後ろ姿へ、

「痛かったかい?」

 とつい問いかける。

「痛かったに決まってるよな。いかんいかん、なに言ってるんだ私……」

 思ったままそのままを口に出して、でもKくんは気づかなかったようだ。

 本当に、早くよくなるといいね。


 ブドウを食べているKくんの頭をなーでなーでしながら、わたくしは、

「痛いのイタイのとんでいけー。幸せになりますように、幸せになりますようにっ」と祈り続けた。

 妹宅に幸あれと祈るばかりだ。それ以上を望めば、きっと悪いことがおこる、そんな気がした。

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