第28話「わたしは食べたいです」と言いなさい
なんで食べちゃいかんの? 自分ちの食卓なのに。
「ぬか漬けおいしいねー」
というと、
「一人で食べとる」
と祖母が言う。
年よりは僻みっぽいので嫌だ。
小鉢には三分の一ほど残ったぬか漬け。
母が漬けたおいしいぬか漬け。
今日はきゅうり。
祖母、なにそれ?
どういう意味?
わたくしは母のきゅうりのぬか漬けを褒めたのに。
おいしいね、と言ったのに。
なぜ
Only you eat.
になるのだ?
あなたが食べればいいんだよ!
ただ、食べて一言、
「おいしいね」
と言ってくれたら、わたくしは満足なんだよ!
母がスマートに
「おばあちゃんも食べたら」
と言ってくれる。
そうだよ! 食べたらいいんだよ!
祖母の言い方はなんだか嫌だ。
今の、無しね。と小皿に梨を盛る。
「お母さんも食べる?」
祖母が食べた。母も。
それでいいんだよ!
人がどうしているかじゃなくて、自分がどうするか、なんだよ!
大体、祖母は主体性がなさすぎる。
そのくせ、食べ物の好き嫌いが多くて。
祖母は食べたいものを食べたいとは、なかなか言わない。
だいたい「これを食べたい」と言ったのを聞いたことがない。
店で注文するときも『これはおばあちゃんの好みかも』と母があれこれ勧めるのだが、
「そうねえ……そうねえ……」
というばかりで、結局母が決めてしまう。
そして案の定、残す。
祖母が「おいしかった」というのはあまり聞いたことがない。
味噌汁にも醤油をジャバジャバいれるくせに、繊細ぶった味覚が特におかしい。
外では、
「味が濃いものはあんまり」
というのに、家では、
「味が薄い」という。
これでは母も祖母の好みを把握しきれない。
「辛いのがいい」のは年寄りだからで、「味が濃いのはあんまり」なのは見栄だろう。
祖母は、細いのが自慢なのだ。
わたくしの健康的な腕をぎゅっとつかんで、
「まあ、太かごつねえ」
笑いながら言うのが曲者だ。
祖母が言いたいのは、
「あたしは細かごつねえ。女らしいごたいねえ。つつましやかごたいねえ」
ということなのだ。
九十三歳でお姫様気取りはやめていただきたい。
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