第23話ノーライフ

 衝撃的な作品集を入手したので、ライフポイントが限りなくゼロに近い。

 死や魔や毒が苦手なので、ホラーな作風にメンタルを打ちのめされている。

 一見、かわいらしい題材を取り上げているだけに、毒が効くのだ。

 一回目、最初から最後までみて、「なんだこれ!」とドキドキした。不吉な予感がしてならなかった。

 様々な疑問は浮かんだが、ひとつわかったのは、かわいいものをたくさん集めてもかわいいと思えるかどうかは別である、ということ。

 作品作りの手順を見ても、最後に「かわいらしい世界に毒を」と書いてあったし(意訳)、芸術なのは認めるが腐敗臭がプンプンで気が遠くなりそうだ。

 それがパワーだ、エネルギーだ、シュールな世界なんだと言われればそうかもしれない。

 実際に、企業とコラボしたという作品、「原画」と呼ばれているものを見ても、感心できないが細密画のようで見事である。

 生き物の毛並みが死骸のそれに見える。金魚が死骸にしか見えない。猫の表情が不穏だ。すべてその作家さんの技術が優れていればこそなのだろう。ギャグにしか見えないものもある。

「なんで兎の頭からキノコが生えているんだ」

「なんで猫や兎の頭からミズダコの触手が生えてるんだ」

「なんでキノコから生き物の足が生えてるんだ」

 なんで、なんでなんで!?

 おかしいだろう。

 二度目はおののきながら笑った、心の中で。

 まるで悪趣味な子供のいたずらに見えたのである。

 作者さんのアトリエを見ても、頭が痛くなる。

 色鉛筆が色ごとにグラデーションになってカップにそろえられているのはいい。プロなんだから、そのくらいこだわるだろう。納得。

 しかし、天井近くのキャットウォークにはプラスチックのカラー人形がグラデーションになって並べられているのだ。きちんとそろえられて! 

 その生活感のなさに、もう病気になりそうである。作品を見たときから、このひと感覚が常人でない、何者!? と思ったけれど、そこまでいかなきゃ、本物ではないということだ。

 まあ、画面の背景にしいたけとか描いても芸がないというのはわかる。しかし、なぜベニテングダケが山盛り満載なのだ!? それがかわいらしい女児の足元ににょきにょき生えているのだ。もう、いい加減にしてほしい。

 配色も補色が多くて、不安にさせられる。インパクトは並大抵でない。カルチャーショックである。

 しかし、こういう刺激でもなければなにか書こうとも思わない自分である。平凡な世界に生きてるよな、と心に言い聞かせる。

 あまりにショッキングで疲労感が襲ってくる。

 こういう世界に触れるのは実は心臓に悪いのだが、まあ、ひとつの勉強だ。試練だ。ああ、わたくしの思い浮かべる世界は遠い。おそるおそる申し述べるが、真似したくない。不安定になる。

 わたくしの部屋にだって、生活感はほぼないに等しいのだから、人のことはいえないが、黙っていると気がふれそうなのでここに残しておく。

 それだけ、のろわれそうなオーラを発している。

 お好きな方には申し訳ない。これでも精一杯褒めている。普通に褒めると嫌味になるので自分の感受性をフルに発揮して、覚えてしまった「恐怖体験」のうちに数えることに決めたのだ。

 わたくしの感性は非常に素直だ。そのはずである。

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