第21話欲しいのはほほえみだけ
同情はいらない。憐れみもいらない。
ほほえみだけが欲しい。
それが、心に根差した希求。
やさしさを、思いやりをくださるのならば、ただ笑って欲しい。
わたくしは、家を一歩出れば敵ばかり。
己を崩さず守るために、滑稽を演じた、きょう気のように。
一人になると思うのです。
たったひとつの花束で、あなたが本当にうれしそうにしてくれたこと。
それがもっと欲しくて、贈りものをしたこと。
はねのけられ、邪魔にされてもあなただけはほほえんでくれた。
女神よ。わたくしにお命じください。
次は、なにを差し出せば、あなたはほほえんでくださいますか?
わたくしにはもう、わからないのです。なにも。
わたくしの美しかった若さは、白さは失われつつあります。
老いることは悲しくはありません。
夢さえ持たず、希望さえ望まず、つつましくしております。
この上なにを差し出せば、あなたはふり向いてくださいますか。
滅びの歌をお聞きになりましたか。
あれは腐臭と暗がりの唄。届かぬ光への怨みの唄。
そんなものになぐさめられるほど、まだまだ絶望を知りません。
これまでになんども乗り越えてきた。
たやすく折れそうになる己の心とあなたのほほえみで。
いつでも手は差し伸べられた。
いつでも誰かが助けてくれた。
見えない手で、知らないところで。
わたくしは……。
大事なものを守るためだけに、恐怖に打ち勝ち、己をふりしぼり戦った。
そうでない自分には価値がないと思った。
今わたくしは、こんなにも
あなたに必要とされたい。それのみで生きている……。
あなたにお聞かせする調べすら知らない。
夢見るように生きている。
望みすら知らない……。
わたくしは己に、満足して死ねますか?
わたくしはほほえみの奴隷。
女神のためのしもべです。
足りないところはありますが、片付けるのに困りません。
あなたさえ、ほほえみをくださるのなら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます