第12話猛暑が悪い
キレられるのは嫌いだし、キレないで欲しいと願っているのだが。
暑さのせいか、そうでないのか。祖母が珍しくキレた。
パックのアクエリアスがカウンターに出ていたので、そのぬるさを確かめてから、
「なんで、ここにこれがあるの?」
と、訊ねた。何かわけがあるのだろうと考えて。
しかし、祖母は、
「知らん! そんなものがあったことも知らんかった。わたしゃ知らん!」
と、険しい顔つきで言った。
おかしいのである。
アクエリアスは昨夜、冷蔵庫の中にあった。確かめた。それが、ぬるくなるまでカウンターに放っておかれたのに、それに気がつかないことがあるだろうか?
すぐそばには、家族の分だけ箸が並べてある。祖母がおいたのだろう。なのに、そのそばにあるパックに気がつかないって、どうかしてるだろう。
いや……祖母は、アクエリアスという存在自体を知らない、と言っているのではないか?
彼女の若かりし時代には、スポーツ飲料というものがなかったのだ。パックの飲料もなかった。だから、
「なんで」
と聞かれると困ってしまうのではないだろうか。それを『困っている』表情が『キレた』表情に見えただけなのではないか。
だいたい、命の危険がある暑さが続きすぎだ。ああ、暑い。だからどうした? もううんざりするほど、長い事こんなざまなのだ。いちいちこうして書くほどのことではない。
22,000人以上が熱中症の症状で病院送りになり、そのうち67人が死亡、と聞いても、
「もっと死んでるだろう。明日にはもっと」
という、心が荒んだ感想しか浮かばないのだ。それほど苛烈である。
働いている人も、そうでない人も、日中動く必要性のある人は心配だ。どうやってこの熱をやり過ごし、生きているのだかわからない。暑いよね。アイスが売れるよね。スポーツ飲料もバカバカ売れるに違いない。
幼い頃、地球温暖化の危機も知らずに、毎日のように神社へお参りして、
「ずっとずっと、晴れの日が続きますように」
などと祈っていた自分。
とても御利益のある神社で。8柱以上の神様を祀っている。
お正月におさい銭を多めにしたら、今年は春にもならないうちからカクヨムの抽選に当たって、全額戻ってきた。図書カードという形で。
はて……今年の猛暑がわたくしの祈りのせいだとしたら。
農家が果樹をやられたのも、水不足で作物が枯れるのも、熱中症で人が死ぬのも、地球規模で温暖化が進むのも、みんなわたくしのせいなのだろうか?(ダムが決壊したのはわたくしのせいではないよね? 大災害とか)
反省することしきりである。農家の血を継いでいるというのに、水の心配をしていなかった。
幼き自分に張り手をしたい。手が痛くなるからしないけれども。
大体が、宗教ではこういった事態において、信仰が、日ごろの信心が、などといったりするが、経典にはそんなもんは書かれてなぞいないだろう? 天は時を選ぶ、とソロモン王が言ったそうな。(カクヨムの舞夢さんの伝道者のお話を検索のこと)
天が! 宇宙が決めたことにわたくしなぞが口をはさんでいいわけないのだ。だからもう、お天気のことは祈らない。テルテル坊主もつくらない。そんなことが許されるのは小学校低学年くらい? なわけだ。
庭の雑草をわざわざ抜きに行くのも面倒なので、朝からお湯をかけてやりたい。だけど暑いからわざわざ沸かさない。雑草、生える。どうしよう。という状態が続いている。
いや、水をやらなければ、雑草とて枯れるだろう、とは思うが……家庭菜園のちっさな畑に水をやると、その周囲に雑草が密集して生えるのだ。まことに面倒くさい。
暑さにも強く、しぶといのはブドウの木である。わさわさ生えている。聞く話によると、切り倒しても皮一枚つながっていれば実をつけるらしい。(キウイも)あの青々とした葉が駐車場に蔓を伸ばしている。夏だ……。夏休みもたけなわだ。
ゴーヤを昨夜食べた。塩でもまれたせいか、苦みもなくおいしく食べられた。毎年沖縄に感謝する瞬間である。うん、ゴーヤチャンプルーおいしいよ!
そして、沖縄ってソテツ食べるとか、貧乏なの? という話になる。
母は、『西郷どん』の知識もまじえて、琉球王国の話をしてくれる。ようするに、みんな本土が搾り取っていたのだから、そりゃ貧乏よ、ということだった。
沖縄出身の知り合いが、いたのだよな、と思いはせる。父の友人だったのだが、いつだったかの三月に倒れ、四月に発見されて納骨されたそうだ。あのときは、知らせを受ける直前に涙がこぼれたので、どうしたのかと思っていたが。本当に不思議だ。一緒に新世紀を迎えたけれど。世紀末を乗り越えてはきたけれども。
こういうことがあるものなのだ。
(んっ! みんな猛暑が悪い!! 決まってる!!!)
3
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます