第21召喚 四天王最強
「ぐああああああああああああっ!」
俺の体を青い光が包み込む。
寒い。
光の中で感じたのは、痛みでも暑さでもなく、寒さだった。皮膚が一瞬にして消え、痛覚さえも吹き飛んだ。眼球も熱で焦げて何も見えない。意識も飛び飛びになり、さすがに今回は本当に死んだのかと思った。
それでも俺は立っている。
失われた肉体はすぐに修復され、元通りの自分に戻っていく。体は崩壊と再生を同時に繰り返し、俺に消滅することを許させない。
そして光線の出力は徐々に弱まり、あの光線を耐え切ったのだ。
「そうか……パルナタード」
アイツはあんな兵器に取り込まれても、まだ抗おうとしている。
召喚者と、勇者。
その強い結び付きが、俺に教えてくれるのだ。
マリナ・ギヌムに魔力を大量に吸われて辛いはずなのに、彼女は勇者である俺に加護を送り続ける。反撃の機会を窺え、と。
「傷だらけなのに、何やってんだよ」
今の彼女は手術を終えたばかりで、体調が万全ではない。病室の魔方陣を離れてしまったため、強い痛みが彼女を襲っているはずだ。
それでも彼女は俺に希望を託した。
「必ずそんなところから連れ出して、外の景色を見せてやるからな、パルナタード。それから、俺を日本へ返す約束も忘れるなよ」
俺は拳をマリナ・ギヌムに突き出すように高く掲げた。
ビームを放った後、マリナ・ギヌムは遠くへ消えていく。王女を取り戻すことに成功し、一度体勢を立て直すつもりなのだろう。やがて黄金の巨人は山々の陰に入って視界から外れ、その姿を捉えることはできなくなる。俺はヤツが見えなくなる瞬間まで、その場に立って動きを目で追い続けていた。
「……ったく、ひでえ攻撃をしやがる」
足元にはビームによって削られ焦がされた大地が遥か後方まで広がっている。あのビームの威力も射程距離は相当なものだった。まさか異世界で巨大ロボットアニメに登場するような近未来兵器に出くわすとは誰も思うまい。
さっきまで俺が過ごしていた治療施設は攻撃の余波で半壊しており、所々から炎と煙が昇っていた。職員や患者が消火作業に追われている。水魔術を撃ち込み、他に燃えている箇所がないか隈なく探っていく。
「おい、スピルネ、ゼルディン! 大丈夫か!」
こんな規模の攻撃では、俺と一緒にいた彼らも確実に巻き込まれているはずだ。無事を祈りながら走ってきた道をヨタヨタと戻っていく。
そして、病院近くで見つけた。
抱き合うようにして地面に座り込む彼らの姿を。
「やあ勇者君。あのビームの直撃を食らって生きているなんて、信じられないね」
「あなたも無事だった、ってことは、まだパルナタードはあなたに加護を送り続けているのね」
俺がまだ再生していることに、彼らも目を丸くしていた。
「それより、お前らも大丈夫だったのかよ」
「ええ。彼が守ってくれたから……」
スピルネは視線を俺の背後へと動かした。
俺はそれへ誘導されるように体を振り向けると、半壊した病院の前に何者かが立っているではないか。彼の周辺の地面はビームで焦げた跡が薄くなっていた。その光景は、男がビームの威力を軽減したかのようにも見える。
「彼が防御結界を使って、光線の威力を受け流したのよ」
「アイツにそんな力があったとはな……」
結界を発動させたとされる、仮面を着けた男。
それは四天王の長にして現魔王、ルインベルグだった。
彼は俺の姿を捉えると、こちらへゆっくりと歩み寄ってくる。病院の周辺からは多くの者たちが固唾を呑んで彼を見つめ、その行動一つ一つに注目していた。滅多に姿を見せない神出鬼没のルインベルグ。そんな彼が突如自分たちの前に現れ、自身の強大な力で自分たちを守ってくれた。仮面越しでも伝わる圧倒的な気迫に、そこにいた者は皆、彼から視線を外すことができなかっただろう。
やがてルインベルグは俺の前に立ち止まると、低い声で喋り始めた。
「久しいな、勇者よ」
「ああ……どうしてあんたがこんなところにいる?」
「パルナタード王女を保護できた、という報告を受けてな。私も彼女と面会して今後の方針を定めていこうと考えていたのだが……」
ルインベルグはマリナ・ギヌムが消えていった方角を眺めると、仮面の奥で目を細めた。
「面倒なことになったものだな。あんな浮遊する巨大兵器は私も初めてだ」
この世界では空を飛べる兵器というのは未発展の分野で、魔眼族でも開発できていない。そもそもこの世界の空はドラゴン種などの凶暴なモンスターが飛び回っているため、人を飛ばせられるほど安全ではないのだ。装甲が強固なものでないとすぐに撃墜されてしまう。
しかし、マリナ・ギヌムの装甲なら原生生物など簡単に追い払える。飛行に必要な条件を全て満たした状態――あの巨人はこの世界においてかなり特異な存在なのだ。
「それで、これからどうするんだよ」
「無論、パルナタード王女を奪還する」
仮面を着けていて表情の読み取れない彼だが、意見は俺と一致していた。
やはり、彼にとっても王女を失うのは大きいのだろう。あれだけの兵器を動かせる魔力を持っている彼女は、戦略を握る重要な鍵だ。このまま王国側に奪われてしまえば、一気に魔眼族が不利になってしまう。
「お前もアイツと戦う気なんだな?」
「ああ。今、部下にマリナ・ギヌムの位置を確認しに向かわせた。いずれヤツの居場所は掴めるはずだ。そこを狙って作戦を展開する」
「問題は、どうやって破壊して王女を連れ出すか、だよな……」
黙り込む俺の前に、ルインベルグはすっと一歩踏み出した。
「あの装甲を破るのは厳しい。だから、勇者の力を我々に貸してはくれぬか? 勇者の加護を使えば、あの黄金も砕け散るはず」
「勿論構わないが……敵は空中だ。俺の拳は当たらない」
マリナ・ギヌムの補給中を狙う手もあるが、どれだけの時間を浮遊し続けられる設計なのかが分からない以上、じりじりと機会を窺うのは危険な気がする。いつどこがヤツに襲撃されるのかも分からなくなったし、パルナタードの体調も万全ではない。一刻も早く彼女を安静にさせなければ命まで危なくなる。
今はとにかく迅速な行動が求められていた。
「なあ……俺をあの巨人に貼り付かせることは可能か?」
それができなければ、俺が打てる手は皆無だ。
空中へ投げ飛ばすような、多少乱暴な方法でも構わない。
「それができそうなヤツに心当たりがある」
そう発言したのは、ゼルディンだった。手を小さく挙げ、いつもの冷静な顔に戻っている。
「そいつとは、誰だ?」
「ゴーレム・アソート。僕の相棒だよ」
ゴーレム・アソート。
初耳な言葉だが、度々俺の前に立ち塞がったあのゴーレムの正式名だろう。
「アイツの腕力なら、君をかなりの距離を飛ばすことができるはずだ。僕がゴーレムを操縦し、有りったけの魔力を注ぎ込んで一気に腕を振らせる。その勢いで君はマリナ・ギヌムに飛び乗る、と」
確かに、俺はヤツに殴られ、大きく吹き飛ばされたことがある。あの力があれば、空中の敵まで飛ばすことは容易なはず。
「だけど問題は位置調整だ。ゴーレムから見てマリナ・ギヌムが遠過ぎたり高過ぎたりすると、君は装甲表面に届かない。だから、できるだけ敵を地表に寄せて、こちらの射程圏内に誘き寄せる必要がある」
「ゴーレムからは移動できないか?」
「ゴーレム自体かなり大きいから、敵も警戒するし、的になりやすい。向こうは近づかずに遠方からビームで沈めようとするはずだ」
名案のようにも思えたが、なかなか壁が多い。あのビームを使える以上、敵は自ら接近などしないだろう。
「じゃあ、どうやってこっちの射程内に入れるんだよ」
「君を投げる直前までバラバラの状態で物陰に隠し、敵が来たところで一気に人型形態に移行。そして君を掴み、全力で投げる」
確か、あのゴーレムにはただの巨石にカムフラージュする能力があったはずだ。俺はあれに何度も油断し、迂闊にも目と鼻の先にまで近づけてしまった経験がある。
あれならば、起動するまで敵に伏せておける。
「だけど、簡単に敵を誘き出せるのか?」
「敵の注意を惹ける標的を使い、それを追わせる」
「アイツらの注意を惹けるものって何だよ」
「つまり、私だ」
名乗り出たのは、ルインベルグだ。
「現魔王である私を討てれば戦争で優位に立てると、ヤツらはそう考えている。私が勝負を挑み、戦力差敗れて撤退するフリをすれば追撃に出るはずだ。例え罠だと知られても、敵は実行に移してくる。もし光線が来たら、遮蔽物を潜って避けながら当てにくい位置に入れば、敵は射撃地点を移動するだろう」
「あんたが自ら囮になるのか?」
「私しか適任はいない。防御結界も使えるし、いざとなればビームを軽減することもできる」
先程、ルインベルグの使った結界魔術。囮役として攻撃を惹き付けるには便利だ。なるべくタフな人物をこの中から選ぶならば、俺以外に彼しか務まりそうな人はいない。
ここまで俺を投げる方法や敵を誘導する方法が決まってきた。
だが、まだ問題は残っている。
「遮蔽物を使って特定の場所まで誘導することに成功したとして、高度を上げられたらどうするんだ?」
「あの浮遊能力は、背中や脚に装備されているブースターの出力で実現している。高度を落とすにはあそこをピンポイントで狙い、魔力同士をぶつけて相殺すればいい」
マリナ・ギヌムの体にはあちこちに青い光を噴射している穴があり、あれが浮力を生み出す源となっている。その効果を下げるため、こちらからも魔力を放って噴射を妨げることが狙いらしい。
「相手は遥か上空にいるのよ? 私の炎魔術でも、届くか分からないわ」
スピルネは首を傾げた。
いつも彼女が撃ち出す火球。あれをかなり離れた敵に当てるのは難しそうだ。
どうにか遠くまで精確に飛ばせればいいのだが……。
「前々回の勇者討伐作戦で使った精密狙撃用魔導兵器を君専用に改造する。そこに有りったけの魔力を溜めて一気に発射すれば、高い位置のブースターにも届くはずさ」
精密狙撃用魔導兵器とは、俺がルインベルグの偽者を討伐する際に彼の随伴する歩兵が装備していた銃のことだ。魔力を一点に集め、直線的に発射する。あれによって俺の視力は奪われ、散々な目に遭っていたのを思い出す。
こうして、マリナ・ギヌム破壊作戦の役割は決まった。
ルインベルグが囮となり、巨人を誘導。
スピルネが狙撃し、高度を落とさせる。
ゼルディンがゴーレムを操作し、俺を投げ付ける。
そして、俺が直接マリナ・ギヌムに拳を食らわせ、王女を奪い返す。
俺たちは地図を広げ、より詳細な作戦を練り始めた。
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