第8話 ルミカ。
締め切ったカーテンの隙間から、じわりと熱気を込めた太陽の光が差し込み、裸のままのあたしの身体にじわじわとその熱を放出していく。
ダブルベッドの上で、規則正しい呼吸を繰り返して眠っている彼と繰り返した昨日の淫靡な行為は、思い出すほどにあたしの身体のどこかの臓器を熱くさせる。
鮮やかなレインボーに施された長いスカルプチュアネイルをベッドサイドに置かれたiPhoneに這わせ、今日が日曜日だということに気付くと、彼が目を覚まさないようにそっとベッドから身体を抜け出してあたしは店に電話をかけた。
「お疲れさまです。ルミカです。生理が来ちゃったんでお休みさせてください。」
「はーい!じゃあ次の出勤決まったら、連絡してねー!」
また嘘を重ねてしまった後悔を揉み消すかのように、あたしはリビングのテーブルの上に置いてあるセブンスターを1本取り出して、火を灯す。
重たい煙草の煙を吐き出すと、もくもくと白み出すこの部屋に少しの安堵が生まれた。
不特定多数の男の性欲を処理することにも、その男たちにいやらしい目で見られて金で買われていることにも、あたしは嫌悪感でいっぱいになるんだ。
あたしは源氏名さえも捨てて、彼ひとりのために、女として死を迎えるまで生きることを選びたかった。
そんな思いを抱いたまま、あたしは他の男の前で裸になって抱かれることは、きっと出来ないんだと思う。
あたしは煙草をぐしゃぐしゃと揉み消すとまたベッドルームに戻り、彼の腕の中に顔を埋めた。
湿度を込め汗ばんだその腕は、無意識にあたしの身体に巻き付くようにぎゅっと抱き寄せて、あたしはそっと重たい瞼を閉じて彼の熱い体温を感じていた。
夜の闇に腐ってぐちゃぐちゃになった果実。
暗闇を追いかけることに心を殺し続けて、あたしはあたしでいられなくなりそうだよ。
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