第5話 アイナ。
重たいロックを外し明け放した窓からキラキラした朝が喚くようにあたしを睨みつけている。
あたしはその眩さに目を細めて、昨日を終わらせられたことに少しだけ安堵した。
ケトルでお湯を沸かし、砂糖とミルクでどろどろになったコーヒーを飲み干して、テーブルの上に置かれた諭吉の束を見つめる。
昨日の夜、あんなに淫靡な行為が行われたこのワンルームのマンションで、今日は
あたしひとりだけが取り残されたようなリアルを投げつけられている。
無防備に置かれた諭吉の束を欠けたスカルプチュアネイルの先端でそっとなぞると、彼があたしの身体に残していった温もりを感じて、この身体に存在しているなにかの臓器がそっと疼いた。
あたしは彼の愛人。
それ以外のネーミングは、きっと持てない。
セミダブルのベッドに溺れるように身体を埋め、彼の首筋からシーツに残ったドラッカーの匂いに、苦しいほどにチクチク痛む心があたしを更に泣きたくさせた。
彼はあたしの知らない顔をして、きっと、このワンルームから出て行ったんだろう。
ベッドサイドに置いてあるゴミ箱に放り込まれたティッシュと破れたコンドームを、あたしは冷たい手でそっと拾い、放出された精液を濡れた舌で絡めて舐めた。
苦い。
このままあたしの身体に入って、この気持ちと一緒に、吸収されちゃえばいいのに。
ねえ。
愛ってなんですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます