第5話 アイナ。

重たいロックを外し明け放した窓からキラキラした朝が喚くようにあたしを睨みつけている。

あたしはその眩さに目を細めて、昨日を終わらせられたことに少しだけ安堵した。


ケトルでお湯を沸かし、砂糖とミルクでどろどろになったコーヒーを飲み干して、テーブルの上に置かれた諭吉の束を見つめる。

昨日の夜、あんなに淫靡な行為が行われたこのワンルームのマンションで、今日は

あたしひとりだけが取り残されたようなリアルを投げつけられている。


無防備に置かれた諭吉の束を欠けたスカルプチュアネイルの先端でそっとなぞると、彼があたしの身体に残していった温もりを感じて、この身体に存在しているなにかの臓器がそっと疼いた。


あたしは彼の愛人。

それ以外のネーミングは、きっと持てない。


セミダブルのベッドに溺れるように身体を埋め、彼の首筋からシーツに残ったドラッカーの匂いに、苦しいほどにチクチク痛む心があたしを更に泣きたくさせた。


彼はあたしの知らない顔をして、きっと、このワンルームから出て行ったんだろう。


ベッドサイドに置いてあるゴミ箱に放り込まれたティッシュと破れたコンドームを、あたしは冷たい手でそっと拾い、放出された精液を濡れた舌で絡めて舐めた。


苦い。


このままあたしの身体に入って、この気持ちと一緒に、吸収されちゃえばいいのに。


ねえ。

愛ってなんですか?



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