第23話

 ウィチア一行は早朝、ダンジョンの前に来ていた。

 セレスとブルーナのお金で必要な装備品も全て整えている。

 四人はそれぞれ、持てるコンディションも、揃えられるものを全て整えていた。


「ママ。今、会いに行くから」


 ウィチアがダンジョンの入り口を前にして呟くと、セレスが肩に手を置く。

 彼女は何も言わなかったが、ただ、本当にその選択で良かったのかと視線で訴えかけていた。

 本当に目的のためならば、このような面子で良かったのかとも。


「私は名声を得るためならなんだってする。なんだってやる。ここにはそういう連中が集まってるんだよ」

「大丈夫かしら……?」


 不安そうな表情で周囲を見るセレス。


「なに。我は謹慎処分を下した騎士団には仲間はおらぬ。それに、普通のパーティーでダンジョン入るよりも、いざという時は娘を人質にしたらええし」

「百年生きた魔女に脅し取れるかもしれないね。宝もあるかもしれない」

「本当にこんな連中を連れて行くの、ウィチア?」


 どいつもこいつも自分勝手で、自分の都合がいいようなことばかり言っている。

 やめてくれと懇願する声は、ウィチアには届きはしない。


「ブルーナはアリーナに侵入するのに必要だ。セレスの魔法も必要になるだろ。ミルトはついでだ」

「やだな。いざという時は男の手が必要だろ?」

「このパーティー最弱がなーに言ってやがる。お前を連れて行く理由なんてねえ」

「グロウディア・ソーサレスが生贄にしてきたのは、いつも女だ」

「……つまりはなんだ? いざという時は狙われないから、助けられると?」

「いや、逃げる」

「やっぱ、こいついらねえ」

「そのいらない人間をパーティーに誘ったのはあんたでしょーが」


 なんのためにこの場にいているのか。

 金銭を手に入れるという目的で付いてきただけの付属品だった。


「まあ、私がダンジョンの最下層に着いた生き証人って考えれば、まあ、一人でも多い方がいいだろ」

「広めないけどね。僕が君のために行動する時は、決まって僕が利益になる時のみだ」


 セレスは無言でミルトの右手を両手で握りしめると、ただの握手ではなく、万力のようにギリギリと締めつけており、ミルトは叫び声を上げるが、無視する。


「行くぞ。ママのところへ。ウィチア・バルファムートの伝説を作りに」

「グロウディア・ソーサレスに復讐しに」

「ウィチアが無茶しないか見張るために」

「か、金のために」


 誰も彼もが好き勝手目的を言い、全員が足並みを揃えずにバラバラにダンジョンへと入っていく。



 結束を蔑ろにしたパーティーはダンジョンに入り、地下の三階にまで到着する。

 ブルーナは地図の魔導器を片手に先頭に立ち、アリーナの入り口を探っていた。

 二十四時ピッタリに構造が変わるということは、入り口までの道のりは二十四時ピッタリに変わり、二十四時ピッタリに壊した壁が復活するということ。

 その影響を受けないガルムロードと言えども、入り口を塞がれれば、探さなければならない。


「こっちだ。この通路を左に曲がって、途中にある通路を壊して進むが良い」


 ブルーナは指示を出したり、胸を揺らしたりしながら走る。

 その間、セレスは忙しく拳を振り、役立たずのミルトですら筒の武器で魔物を撃っていた。


「おい! どうして三階なのに攻撃が激しいんだ!?」


 ウィチアはとんがり帽子を押さえながら叫ぶ。

 ダンジョンの三階くらいならば、シャドーたちも大して力を持たない。

 だが、今日は違う。

 敵は、倒しても倒しても次から次へと現れる波状攻撃をウィチアたち一行に行っていた。

 休む暇も、気を緩める時も与えられず、探索すらままならない。


「喋ってると舌、噛むわよ!」


 セレスはひたすら現れるシャドーを拳で殴り倒す圧倒的な魔法で、ブルーナは氷で盾を作ったり、まとめて縛り上げたり、芸術的な魔法の数々で無力化していく。

 だが、全員、休む間もなく戦い続けていて、疲労の色が濃い。

 疲れていないのはウィチアだけだった。


「ええい! 面倒な奴らだ! このウィチア・バルファムート様の道を閉ざしても、アンロックするまでだ!」


 ウィチアがアンロックの魔法で、壁をめくる。

 石の壁は、貼り付けた紙を剥がしていくようにめくれていく中、人一人が通れるほどの小さな穴が出現する。

 目的の通路が姿を現したところまでは良かった。

 ……その穴の中からシャドーたちが現れるまでは。


「ちょっとどういうことや! 聞いてへん! 何をしたんや、ウィチア!」

「知らねえよ、アリーナの中にシャドーはいないって言ったのはてめえだろーが!」


 大きな斧や、大きな剣を持つ者まで。

 中には杖を持って、魔法まで使おうとしているシャドーもいる。

 だが、ウィチアは逃げ出さない。


「セレス! 突っ込め! アリーナごと、貫いて最下層まで行くぞ!」


 全員が前に前にと戦いながら進む中、ウィチアは叫ぶ。


「そんな、無茶言わないでよ!」

「偉大なる魔女を信じろ!」

「ウィチア……いけるのね?」


 そこから、セレスは勢いよく壁を走り、シャドーの群れたちの頭上を軽々と越えていく。

 アンロックしか使えないウィチアに何を信頼したのだろうか、それでも彼女はウィチアが言ったように穴に向かって走る。


「てめぇーらも続け! ウィチア・バルファムート様の凱旋だ!」

「一番後ろで何もしてへんのに偉そうに!」

「僕ですら貴重な魔導石を消費しながら戦ってるっていうのに、この魔女は!」


 セレスが地面に入り口の前に着地すると、シャドーが斧を振り回す。

 一撃をしゃがんで躱すと、カウンター攻撃を顎に浴びせて吹き飛ばし、穴の中に突撃した。


「ええい! 我の道を閉ざすアホ共は、焼き尽くしたる!」


 右手に炎を灯らせたブルーナが、ボールを投げる要領で火球を投げると、火球は輝く火炎となり、通路を焼き尽くす。

 道を閉ざしていたシャドーの群れたちは炎の海に灼かれる中、ブルーナが水の魔法で壁を作り、壁の合間をセレスの後を追うように走る。


「ははは! 今からウィチア・バルファムート様の偉大なる魔法を見せてやる!」


 ウィチアが先に穴の中に入り、狭い穴を落下していく。

 以前にセレスがやったように身体を垂直にし、落下する。

 帽子やメガネが飛ばされそうになるので必死に左手で押さえながらの落下になるが、先行したセレスにすぐに追いついた。


「ウィチア! 次にどうするの!?」

「お前は炎の魔法で待機してろ! 私はアリーナの地面に向けてアンロックしてやる! ――今言うことじゃねえが、よく私の言葉を信じて突撃したな!?」

「落下中に言うことじゃないわね! でも、当然でしょ!」

「なんだよ」

「奇跡を起こしてきたあんたなら、奇跡をまた起こせるんじゃないかって思っただけよ」


 落下に身を任せる中、遅れてブルーナやミルトまでもが落下してきた。

 ウィチアは帽子で顔を隠す。


「当然、か」


 少し、感極まりそうになったが、このままボーッとしていては地面に激突して死ぬのは避けられない。

 ウィチアは左手でポケットをまさぐると、杖を取り出し、地面に向けてアンロックをぶつける。


「我が道を開け! そして、私を偉大なる魔女へと昇格させろ! アンロック!」


 ウィチアのアンロックがアリーナの地面にぶつけられ、アリーナが真っ二つへと別れていく。

 新しくできた亀裂をウィチアたち一行はさらに落ちる。

 さらに追加で落下を続ける中、ブルーナは手を地面に向け、セレスは拳を振りかぶる。


「首を洗って待っとれよ、グロウディア・ソーサレス! 自分(まじょ)の魔法で仕留めたるからな……!」

「ブルーナ。息を合わせられるかしら?」

「我と一緒に破壊の魔法を使えばいいだけや。自分のことだけ考えていればええで!」

「それも、そうねッ!」


 落ちていく中、ウィチアの視界には閉じていく通路と、風の魔法も使わずに自由落下するギルドの受付嬢と検察騎士が並ぶ。


「「ファイアー!」」


 拳に炎を灯すセレスに、火球を持ち上げるブルーナ。

 同じファイアーの魔法でも、使用者によってここまで異なるものか。

 塞がる壁にセレスは拳で砕きながら進み、ブルーナの炎が爆発を起こして破壊していく。

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