第9話

 ダンジョンはウィチアたちの街から出てしばらく歩いたところにある。

 人々の生活が魔導器と魔導器を動かす魔導石によって成り立つのであれば、魔導器と魔導石が手に入るダンジョンは、人々の生活が成り立つために必要であるという、三段論法が成り立つ。

 当然、金の動きが激しくなるということは地域が活性化し、ダンジョンを中心に過密化していくわけである。

 特にウィチアの登録したギルドは街の中でもっともダンジョンに近いため、飲食店も兼業しているわけだ。


 ウィチア一行は、ダンジョンの入り口の前に立っていた。

 隆起した岩山に、小さな洞穴。

 その近くで、一行は男女数人でパーティーを構成していた。


「さて、ウィチアさん。まずはダンジョンの手続きだね」


 ミルトはポケットからギルドで交付された証明書と、巾着袋に入れた何枚かの硬貨を取り出す。


「何か買うのか?」

「ダンジョンの地図を買うのさ」

「買っても二十四時きっかりに役に立たなくなるだろ」

「役に立たなくなっても買うのさ」


 ダンジョンの入り口付近には多くの出店が並んでいるが、その中でも一際、列の長い屋台へとミルトは足を運ぶ。

 そして、ものの十数秒で魔導器を片手に戻ってきた。


「それは?」

「見れば分かるよ」


 ミルトが魔導石を箱のような魔導器の窪みに埋め込むと、青白い光が、線となって魔導器の上に現れる。


「……地図?」

「正解。魔導石に地図情報を入れて、魔導器で読み取る」

「ってことは、あいつら探索ギルドか」


 冒険者が魔導器を求めてダンジョンへと足を踏み入れるなら、探索者は地図を求めてダンジョンへと足を踏み入れる。

 探索ギルドは二十四時を回った瞬間に一斉にダンジョンへと踏み込み、誰よりも早くに制覇して、地図の作成を行う。


「話には聞いていたが、あいつらも考えた商売だな」

「全くだ。その代わり、毎日前人未踏のダンジョンを可能な限り制覇する彼らには頭が下がるよ」


 地図もなし。誰も足を踏み入れていないからどんな罠が待ち構えているか分からないダンジョンを真っ先に攻略する彼らは、冒険者よりも危険な目に遭う。

 だからこそ、彼らは実力者も多く、ダンジョン制覇を夢見る若者たちは、冒険者ではなく探索者を目指すとウィチアは聞いていた。


「で、この時間だと宝はどこにある?」

「少し待ってくれ」


 ミルトが魔導器の上に手をかざし、右や左に動かすと、動きにあわせて青白く発光した線が右へ左へと動いていく。


「パッと地下三階まで見てみたが、宝があるか怪しそうだね」


 当然、地図情報は探索ギルドの人間たちが集めた情報である。

 そして、宝箱は冒険者たちの早い者勝ちなのだ。

 階層が浅くて簡単に見つかる宝箱はないと思った方が良い。


「あまり深くなると危険なんだろ? いけるのか?」

「うーん、ウィチアさんの身の安全も考えないといけないから」


 ミルトは忙しなく魔導器を操作する。

 ダンジョンは深くなればなるほど、罠や影の魔物、シャドーが増える。

 宝も多くなるが、危険性も多くなるわけだ。


「浅い階層で探索してみよう」

「それだと宝を根こそぎ冒険者たちに取られてるだろ? 地図にはたしか、宝の場所も書いてあるわけだし」

「それは探索者が見つけられた宝の話だよ。つまり」

「見つけられなかった宝を探すわけか」


 地図は完璧ではない。

 探索者自身が見つけられなかったものは、地図には載らないというわけだ。


「さて、全員準備はいいね?」


 ミルトは従者たちに声をかけ、従者たちは荷物を背負って頷いた。


「くくく……これから、この偉大なる魔女、ウィチア・バルファムート伝説の序章が始まるわけかっ!」


 これから、ウィチア・バルファムートにとって、初めてのダンジョンに突入する。

 ウィチアは期待で胸が熱くなり、誰にも聞こえぬように歓喜した。

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