ビッグ・ファイブ

【ビッグ・ファイブ理論】

 人の性格は主に5つの因子(開放性Openness誠実性Conscientiousness外向性Extraversion協調性Agreauleness神経症傾向Neuroticism)から構成されており、どの因子が高いかで性格に個人差が現れるとされる理論。「主要5因子」または5つの因子の頭文字を取って「OCEANモデル」とも言われる。


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【広子(32歳)の供述】

 はあい、はい、はい。黙ってても言いわけね。あ、嘘はダメ? ちぇっ……なんてね。それくらい分かるよ。

 そうねえ、被害者——貴司くんでいい? いつもそう呼んでるから。あたしが貴司くんに初めて会ったのは1ヶ月と……ちょい前くらいかな。そうそう、今年の4月末くらい。どこでって、彼の仕事先よ、ホストクラブ。何その顔、男の人だってキャバとか風俗とか行くじゃん。刑事さん行ったことないの? 行ってみなよ、何事も経験ってね。取調べするならそういう世界を知っといてもいんじゃない?


 はいはい、ごめんて、話すから。あたしがその店に通ってて、まああたしは色営だって気付いてたんだけどねえ。でもほら、ハマっちゃったんだから仕方ないじゃん? どうせ他の女にもこういうことしてんだし、あたしはあたしで楽しく恋愛気分を味わってやろうって、気軽に考えて付き合ってたのよ。こう言う経験も、人生の糧になるかもしれないしね。

 だからまあ……殺されちゃった時も、あんまり驚きはしなかったかな。偏見だけど、ホストに沼る女ってヤバそうなの多いじゃん?


 その日に、あたしが何してたかって? そうだよねえ、警察はそっちが気になるよねえ。ねえ、そっちの机でパソコンしてる人、あたしの話したことを記録してるの? 見てみたいんだけど……ダメですか、そうですか。


 あたしはその日、店で貴司くんと会っただけだよ。ホテルへは千代と行ったんじゃないかな。そ、神田千代。

 千代はなんていうか、常に誰かと一緒にいないと死んじゃうような、寂しがり屋の女って感じ。あたしみたく、もっとうまく距離を取って遊べばいいのにね。


 ま、私もホストの恋愛ごっこにハマっちゃったワケだし、人のこと言えないけどね。あーあ、貴司くんのこと、ほんと残念だなあ。

 


【優香(43歳)の供述】

 はい、供述拒否権については理解しました。いえ、大丈夫です。少し寝不足で……。有難うございます。けれど、このまま続けても大丈夫です。先延ばしになる方が、きっと辛いので。

 貴司さんのことは、千代さんの交際相手と聞いておりました。千代さんは年の離れた妹のような存在です。彼女が貴司さんとお付き合いを始めたのが2ヶ月前で、それはもうアルバイトをして稼いだお金のほとんど全てをホストクラブで浪費している状態で、私は心配していました。


 彼女の仕事? コンビニと、居酒屋です。コンビニの方は私も出ています。彼女、レジ打ちでミスが多くて店長に怒られがちですので、私が出勤する時は、基本的には私がレジ対応をしていました。怒られて縮こまっている彼女を見ているのが、なんだか辛くて。


 貴司さんは……一度だけ、お会いしたことがあります。2週間ほど前でしょうか。千代さんが彼との真剣な交際を考えているようでしたので、私は彼にそんな甲斐性があるのか確かめたくて、いてもたってもいられず、千代さんとのデートのあとにご挨拶をしました。ホストクラブにお勤めとのことですが、その日の彼はオシャレ好きの好青年って印象を受けました。古いかもしれませんが、ホストってもうっとこう……襟足の長い茶髪で、派手なシャツを着たりして、少しヤンチャなイメージがありましたが、彼は案外普通で。私に対してもにこやかに対応してくださって、少し安心していたのです。


 それなのに、こんなことが起こってしまい……。

 千代さんが殺したのでしょうか。そうであったとしても、私はきっと、彼女には何か事情があったのだと思います。とっても繊細な子で、誰かを傷つけるような子ではありません。むしろ、自分を責めて傷つけてばかり。……すみません、みっともないところを。いえ、大丈夫です、ちょっと。……ごめんなさい、やっぱりティッシュを頂けますでしょうか。



【明梨(17歳)の供述】

 黙ってるのはオッケー、嘘NG、解りましたあ。

 あたしと貴司の関係? たまに会って遊んでエッチするだけ。え? 未成年者じゃなかったのかって? そうだけど、そんなん気にする必要ないよね。てかもう夜じゃん、マスカラ落ちちゃったし、まじ萎えるダルすぎ。メイクしなおしてから話しちゃだめ? だめか、はあい。


 貴司のこと、どう思うかって? やだ、恥ずいんですけど。婦警お姉さんの彼氏のこと教えてくれたら、話してあげよっかなあ。————何マジになってんの、冗談じゃん。はいはい、捜査のためね、捜査。

 貴司のことはシンプルに好きだったよ。甘えたら奢ってくれるし、エッチもうまいし、あたしのことも馬鹿にしないしね。貴司の店に行ったことあるかって? あたしはないけど……千代ちゃんとか広子さんとかは行ってるんじゃない? あと絹絵さんと……友美さんは行ったことあったのかな?


 あいつと最後にあった日は、そう、事件のあった日だよ。へへ、正直でしょ。嘘ついちゃダメって約束したもんね。

 貴司の仕事が終わった後、ラブホで会ったの。んで、やることやって……え、何これ、内容も話さなきゃダメ? えー恥ずっ。大人が17歳に聞いていいの? うーん、まあ、普通だよ普通。あれ、もしかしてあたしがヤってる最中に殺したと思われてる!? ひっど。

 別にけんかとかしてないし、楽しくエロいことしてたんだよ。んで終わったらあたしは出てったの。そっから貴司が誰と会ってたかなんて知らないしどうでもいい……貴司の勝手だしあたしに関係ないし。


 話変えるってなに……千代ちゃんの話?

 あたし、千代ちゃんみたいな大人にはなりたくないなあ。なんか貴司に依存してるっていうかさ。

 それに、あたしだってエッチだけじゃなくて、もっと貴司とデートとかしてみたいのに。あたしはいっつもそういうことする時ばっか呼ばれるんだよね。


 ……なんかもうダルいわ。あと絹絵さんとかに聞いて。はーい、もう黙秘しまあす。あー、あー、それも黙秘でえす。…………は、何? うざ。言いたくありませえん。


 

【友美(24歳)の供述】

 はい、正直にお話しします。ところで、他の方にも取調べ、してるんですよね。あのう、皆さんは洗いざらい……あ、教えられないんですか、失礼しました。


 事件当日の私……ですか。私は特に何も。ほ、本当なんです、あの日、私は貴司さんにお会いしていません。けれど、広子さんは貴司さんのお店に行っていたはずです。あれ、あの……この話、広子さんから聞いてますよね。ホテルに行ったのも確か千代ちゃんか明梨だったはず。その日の貴司さんにまつわる話といえば、それくらいしか……すみません。


 私と貴司さん……ですか?

 貴司さんは素敵な方だと思いますよ。広子さんの会話にもついていけて、優香さんには優しく常識的に振る舞いますし、明梨とも……やだ、私ったらこんなことで。顔赤いですよね、恥ずかしいな。

 え? ああ、私と貴司さんのこと、でしたね。私ももちろん、彼のことが好きでした。仕事として関わっていることは理解しているつもりですが、優しいし、でもちょっと強引で、私はお店で会うことがほとんどでしたが、それでも好きになっちゃいますもん。……あはは、なんか暑いですね。


 はい、次は千代ちゃんのことですね。

 千代ちゃん、大学卒業してからフリーターで……あ、優香さんからお伝えしたんですね。いっぱい勉強していい大学行ったのに、就活には失敗して。ここ最近の千代ちゃんは、そういうストレスもあったんですよ。まあ、だからといって貴司さんを殺すなんてできません。私も大概、人に同調しがちですが、千代さんはひとりじゃアルバイトひとつ決められませんから。必ず誰かに決めてもらってるんですよ。

 だから、彼女の意思で殺人なんてあり得ないです。



【絹絵(28歳)の供述】

 うっさいな。そんなん説明されなくても知ってるよ、馬鹿にしてんの? てかなんでそっちは2人で私は1人な訳? 記録って何よ、じゃああたしも録音させて…………はいはい、はあい。分かったから。延期なんて冗談じゃないわ、さっさと始めなさいよ。


 貴司……知らないわあんなクソ男。事件当日にあたしが何をしてたかって。なにそれ、あたしを疑ってるわけ?

 あの日は最悪だったわ。だって、朝起きても彼から連絡が来てなくて、不安になったの。私が必死に連絡して、それでやっと、昼前に連絡はくれたけど……。彼、彼がっ……もう、私のことなんて必要ないって思えて。ごめんなさい、泣くつもりは………。


(5分の休憩)


 大丈夫、もう喋れる……。うん……。え? あ、はい…………。貴司、貴司のことね、ふふ。あの男、みんなにいい顔しといて、結局、女から金取りながらヤりたいだけの、クズなのよ。………はあ、私のことも、何にも分かってくれない。……みんなそれに気づかなかった。貴司は死んで当然。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね……うふっ、ふふふ、くくくく。


(5分の休憩)


 千代? あんな子、いなくなっちゃえばいいのよ。あの日貴司に捨てられたのはあの子だもの。私じゃない。だからあの子も死んじゃえばいいんだ。

 何よその目。あたしじゃない……、あたしじゃないわよ…………! あの子が捨てられたの!捨てられたのはあたしじゃない! アイツが捨てたんだ、殺されて当然よ! あたしじゃない! あたしじゃない!

(被疑者の心身状況を鑑み、聴取を中断した。)



【某署刑事第一係にて】

「お疲れ様でした」

「気が滅入るわね」

「主治医から聞いた通り、絹江が一番扱いづらかったですね」

「そうじゃないの。同じ人間が、毎度毎度別人のように振る舞うのよ。頭がおかしくなりそう」

「ひとりの体に5人の人格があるって、実際に見ると驚きですね」

「結局、元の人格? の神田千代を名乗ることはなかったし、犯行に関する話は一番不安定な絹江が仄めかす程度だし……否認してるのかどうかすら、よく分かんなくなってきちゃった」

「あと話変わるんですけど、被疑者の供述、神田千代でいいですか。それとも人格ごとに名前変えますか」

「もう知らないわ、面倒臭い」

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