アニメだったらここが引きになります
建物の扉を開けて中に入った瞬間、急にもわっとした、かび臭いにおいがした。
おそるおそる中に入ってみると、そこには大量の木の棚の中にびっしりと本が並べられ、あたかも図書館のようだ。下にひいてある赤いカーペットとか、木で上手に組まれた内装がその雰囲気をさらに際立たせている。外見とは打って変わって、有名大学(ここも有名大学なんだが)の本キャンパスにある蔵書数ウン百万レベルの図書館を、内装そのままにコンパクトにまとめたような作りになっている。
「すごい量の本だな・・・。でも、なんでこんなところに」
「それは後で説明する」
と言いながら、鷺ノ宮は大量の本には目もくれず奥にある階段に向かっていく。
「あ、おい、ちょっと待て」
それにしても、なんでこんなところに図書館があるんだ?
大体、キレイに掃除されたカーペットといい、高級住宅さながらの内装といい、こんな森の中(つっても大学内なんだが)にあるには違和感ありまくりの建物だ。ますます気味が悪い。
本棚の間をきょろきょろしながら歩いていると、本棚の本がいくつか目に入る。
「若者メンタリング入門」
「なぜ最近の若者は『キレる』のか?」
「さとり世代の育てかた」
本のチョイスがなんとも気になる。最後のに至っては明らかにラノベの影響受けてるだろ、と心の中でぼやいていると、
「はやく。ここの階段を昇っていく」
と急かされた。慣れない環境だからびっくりするんだよ、もう少し人間味のある声でしゃべってくれ。
俺と鷺ノ宮さん(仮)は、階段を上がりフロア的には3階に位置する場所に着いた。
そこは先ほどまでのように広場のようにはなっておらず、階段の目の前に扉が一つだけ。
「ついた」
なんだかいかにも怪しげだ。扉を開けたら異世界ですみたいな展開か?
「入って」
「先にお前入って・・・」
「入って」
口答えは無駄なようだ。
しょうがない。まあ大学生活にもほとほと飽きが来ていたし、人生にもそろそろ魅力を感じなくなってきてたし、正直異世界に飛ばされた方がいくらか可能性が広がるってもんだ。
よし、開けてやろうじゃねえか。
「じゃあ、開けるぞ」
変な緊張感に包まれながら、おれは扉を無造作にこじ開けた。
今思えば。
あの時、異世界に飛ばされていた方が、よっぽど俺は楽だったんじゃないかと思う。あの時軽い気持ちで扉を開けた自分をぶん殴ってやりたい。
何も起こらないこと、そのことは、ただその点において、実に幸福な出来事だったんだから。
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