第15話 もやもや
「結局は、不安なんだと思いますよ」
「…うん」
「でも、少なくとも田端さんは米原さんが好きで、会いに来たんだから」
「…」
「田端さん、もうすぐそっちに着くんじゃないですか?電話してくると思いますよ。切りますね」
「…うん」
「じゃあ、また明日。あ、仕事休んでも文句言いません」
「休まないわよ」
「いや、結構人生かかってるかも知れませんよ」
俺がそういうと、米原さんが息を飲む音が伝わってきた。
「ちゃんと、向き合って」
「…うん。うん、分かった。ありがと」
米原さんの声が心細く聞こえる。
「じゃあ」
「うん」
田端さんのことは好きで、遠距離恋愛は嫌で、でも九州行って結婚するのはまだ早い。
確かに、米原さんのその態度や気持ちを受け止めるには、田端さんは結論主義過ぎるかも知れない。すぐに白黒はっきりしたがる。
でも、田端さんのそういう極端なところ、即断即決なところが魅力でもあるだろう。本人も全く隠していない。先日の『急に退職劇』をみるにつけて、誰もが分かっている性格だと思う。
全部ひっくるめて、米原さんが田端さんをどう受け止めるか。
田端さんがうちを出た後、俺はその報告としてもう一度米原さんに電話をした。
そして、あの自信家の田端さんが、相当弱っている様子であることを伝えたのだ。
「田端さんは米原さんのこと、すごく好きなんだと思います。表面に出ない部分もあるけど、かなり」
「…そうかなあ。なんか、田端っちって、人間の感情を無視して色々決めていっちゃうところがあるじゃない?だから、なんか、置いてけぼりの気分になるのよ。きっと一旦こっちのこと『結婚相手』として見始めたら、もう多分『同期の米原』は存在しなくなっちゃって。で、自分と、結婚相手、っていう人?とのスケジュールがじゃんじゃん組まれて、あとはその通り進んでいって。私がじゃなくても同じ結果になって」
ああ、言いたいこと、分かります。
「田端さんって、そう見えますよね」
言いながら、ちょっと笑ってしまった。その空気が米原さんに伝わって、米原さんも少し笑った。
「そういう人なのよね。あんまり急だから、このまま流れに乗るの、ちょっとためらう」
「…でも、それを田端さんに言っても、多分理解してくれないですよね」
「そう。何かをするって決めたら、とにかく決行するし、決めたことを実行できない人の気持ちは分からない。決めたのに、どうしてやらないの?って言われる」
そこまで噛み合ってなくてコミュニケーションも取れていな中で、これから先、この二人は付き合っていけるのか?などと思う。
人って、『好き』ってだけでどれくらい長く一緒に生きていけるんだろう。
……。
でもまあ、今、米原さんに、そんなこと言っても仕方がないな。
「とにかく、話、聞いてあげてください」
「…うん」
「それと、話を、聞いてもらってください」
「うん」
それで、落ち着くのかどうか分からないけど。
「結局は、不安なんだと思いますよ」
米原さんと田端さんのドタバタを間近で見ていると、男女でもこれだけ難しいんだなって思う。
けど、鍵になるのって、不安になっている人の、その不安をどうやって取り除くかってことだし、それにはお互いに会話を重ねて、考え方とか、思っていることを理解し合うしかないって気がする。
今、俺もとても不安だけど。
もしかして、高野さんも何か不安なことがあるんだろうか。
不満とか。
…やっぱり高野さんともっと会って話がしたい。
高野さんの話も聞きたい。
結構俺からはメールしたりしてるんだけどな。これ以上ぐいぐい行ったら、しつこいんじゃないかって思うくらい。
ああ、それすら不安。
とにかく、待った方がいいんじゃないのか。
…いや…。
待つけど、連絡は取ろう。
最近は待ち過ぎて、こちらから連絡を取るのが不安になり過ぎている。
スマホを持ち上げた。
『お疲れさまです。米原さんのグチ聞き飲み会終わって帰宅しました』
送信。
高野さんのことを知りたいけど、なかなか聞く時間がないから、とりあえず、自分の事を打ち明けていこう。できるだけ正直に。
それで駄目になるんだったら、俺の考え方の一部が高野さんにひっかかって拒否されるんだったら、長い間のどこかで、いつか結局続かなくなってしまうんだろう。
俺が直した方がいいところは直すし、気をつけた方が良いところは気をつける。
自分がしんどくない範囲で、だけど。
それで高野さんが良いと思うんだったら、きっと俺にとっても良い事のはずだ。
『高野さんに会いたいです。あんまり喋ってないし、嫌われていないか不安です』
打ってみて、ちょっと重いかなって思って、もう一度読み返した。
重くてもいいか。正直が大事。
送信。
変な夜だ。米原さんのグチ聞いて、田端さんに待ち伏せされて、また米原さんのグチ聞いて、高野さんに連絡入れて。
ピンポーン
インターホンが鳴った。こんな夜に。田端さんが戻ってきたのか?いや、そんなまさか。
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