2
その日の放課後、俺はファイリアからの申し出で、学園内を案内してもらえることになった。
「ナギサくん、すぐ迷子になって泣いちゃいそうな顔しているからさ」
エメラルド色の妖精が、小馬鹿にしたような声で笑う。睨み付けると、笑いを堪えながらファイリアは謝った。
「ごめんごめん。この学園広いからさ、ナギサくんじゃなくても五人に一人くらいは迷っちゃうんだよ」
「なーんか微妙だな……」
「そう? 百人いたら二十人は迷うんだよ?」
「だから微妙だって」
スクールバッグを持って、二人で教室から出ていく。俺達の教室―――高等部一年生の教室は二階に位置していた。二階には他に、二年生の教室もある。階段を下ると、一階は全て食堂だった。
「食堂は基本、どこの校舎にもあるんだ。学生なら三食タダ。ちなみに今日の日替わり定食は、リンゴの肉詰めだよ」
なんだそれ、めちゃくちゃ気になる。どうしてリンゴに肉を詰めようと思ったんだ。どうしてピーマンはやめてリンゴにしたんだ。
心がリンゴの肉詰めに揺らいでいく。チャレンジしてみたい気もあるが、おぞましいものが出てきそうで怖い。挑戦する勇気が飯時にあったら食べてみよう。
密やかに決意し、三階へ向かった。三階には三年生の教室があり、中等部もしくは寮へ繋がる渡り廊下が設置されていた。
幼稚舎から大学部まで、全ての学舎が揃うキシリア学園。ここには人間だけでなく、ファイリアのような妖精も、獣耳の生えた獣人も、様々な種族が通っている。驚くべきことに、その中でも人間が最も少なく、片手で数えられるほどしかいないのだとか。
「人間っぽい生徒はちらほら見えるけど……」
「羽をしまうと人間みたいに見える子はいるけど、みんな人間じゃないよ」
「どうして分かるんだよ」
「だって、人間はナギサくんを入れて三人しかいないんだもの」
つまり顔も名前も割れてるってことじゃないか。はじめからそう言ってくれよ。ちょっと探しちゃったじゃんか。
不満を心中でこぼし、辺りを見回した。校内を歩いていると、人間とはとても思えない生徒の方が圧倒的に多かった。額から角を生やす少年や、硬そうな鱗に纏われた尾を持つ少女など、多種多様である。
そしてその事実は、ここがゲームの世界だと裏付ける証拠にもなった。
「ここから先が、中等部だよ」
渡り廊下が先に続いている。キシリア学園は廊下だけでなく、教室にもガラス張りの窓がたくさんついているため、校内はとても明るかった。その上この渡り廊下は、床もガラス張りになっており、足元で二人の女子生徒が歩いているのが丸見えだった。その瞬間、恐怖よりもある種の好奇心が沸き起こった。
この廊下を歩く女子を、下から見上げたら―――。
「見えないよ」
びくりと肩が上がる。ファイリアがにやにやと笑いながら、俺の顔を覗きこんできた。
「女の子のパンツが見えると思ったんでしょ? 残念。下からは見えない仕様になっているんだ」
「べ、別に思ってないし……」
「ふーん。ナギサくんってすけべそうな顔をしているのにね。本当に思わなかったの?」
「お……思って……ないし……」
軽くショックを受けた。俺っていつも初対面の女子に、そんな風に思われているのだろうか? 迷子で泣きそうな顔の次は、すけべそうな顔って―――膝から崩れ落ちたい衝動を抑え、なんとかファイリアについていく。
「マジックミラーみたいなものなのか?」
「ちょっと違う。効果は同じだけど、これは魔法でやっているんだって」
「魔法?」
「そう。あ、そっか。ナギサくんは人間だもんね。魔法に馴染みないよね」
ファイリアが右手を上げると、エメラルド色の目が光った。次の瞬間、彼女の手のひらから火が現れた。少しだが熱も伝わってくるし、見る限り本物だった。
「うわ……! すげー!」
「鬼ほどじゃないけど、妖精も使えるんだ」
「へぇー! 羨ましいな」
「羨ましい?」
「だって魔法が使えるなんて、まるで空想の世界みたいじゃないか」
本当に空想の世界だけど、と心の中で付け足す。ファイリアはぎゅっと火を握り潰した。手を開くと、燃えた形跡は全く残っていなかった。
「ナギサくん。魔法っていうのはね、魔物のばらまいた呪いなんだよ」
「呪い?」
「そう。魔物に犯されたという証でもある。だから羨ましいなんて言う人は、今まで誰もいなかったよ」
静かな憤りを感じた。素直に謝ると、「人間だからしょうがないよ」と笑って許してもらえた。
そうだ。彼女は人間じゃないし、この世界は現実じゃない。迂闊なことを言うべきでないと、肝に銘じた。
渡り廊下が終わると、高等部の校舎と全く同じ内装の、中等部校舎に入った。ただし、生徒の着ている制服は高等部のものと違い、シャツとブレザー、それからズボンないしスカートの色が、俺達のものと白黒が逆転していた。ファイリアのような尖った耳を持つ小柄な女子生徒二人が、ちらちらと俺達を見ながら横を通り過ぎる。
「中等部は基本的に、高等部と同じ造りになっているの。だから朝、間違えてこっちに来ないようにね」
「う……ちょっと不安だな」
「ナギサくん、やらかしそうな顔しているもんね。ダメだよ? 中学時代は過去に置いてきてね?」
どんな注意だそれ。あいにく俺は過去を捨てて来てるんだ。中学時代の青春に憧れて暴れるつもりなんてない。
そう言うと、ファイリアは不思議そうに首を傾げた。
「よく分かんないけど、やらかすつもりが無いならいっか」
「ああ、安心しろ」
二人で階段を降りる。廊下を歩いていると、ふと窓の外へと視線が移った。人工芝の校庭に、中等部の生徒だったり、青いジャージ姿の生徒だったり、多くの生徒の人だかりが出来ていた。すれ違う生徒も、不思議そうにそれを眺めている。
「ん? なんだろう、あれ」
ファイリアも気付いて眺める。少しして、何かを見付けたように「あっ」とこぼした。どうしたのか尋ねると、ファイリアは悪戯っぽく笑い、俺の手を取った。
「あそこに行こう」
「何かあるのか?」
「うん。キミの求めるものがあるよ」
詳しくは訊けず、俺は妖精に手を引かれた。校庭へ出るとちょうど、方言混じりの甲高い声が耳に飛び込んできた。
「だから! アマトが悪いんやないか!」
人だかりの中心で誰かが叫んだ。人々の間から覗きこむと、三人の女子生徒がいた。
一番背の低い少女は、犬や猫のそれと似たような茶色い耳を頭から生やし、スカートから生える、同じく茶色いふさふさの尻尾をパタパタと左右に振っている。一見すると可愛らしい姿だが、真っ黒な目はギラギラと光っていた。
「だからなんで私なの? ホクピが悪いんじゃん」
その少女と相対する、アマトと呼ばれた少女が言い放った。黄色の目で、目の前のホクピを鋭く睨んでいる。ホクピと似た黒い獣耳を生やし、細長い黒の尻尾は緊張したように、遅めのテンポで左右に振られていた。
「うちじゃない! アマトや!」
「ホクピだよ。いい加減認めなよ」
「違う!」
ホクピがプンスカと怒るが、アマトは「フン」と顔を逸らしてしまった。その態度にホクピがさらに怒りを爆発させる。
見物していた生徒達は飽きたのか、ちらほらと離れていったり、少し離れた所でサッカーを始めたりした。喧嘩してる横で随分な精神だな……と呆れていると、ファイリアは辺りを見回し、何故か嬉しそうな笑みを浮かべた。
「なんで笑ってるんだ?」
「え? ふふっ、内緒」
「はあ……」
「ね、ねぇ……二人とも、止めようよ……」
ホクピとアマトと共にいた、三人目の少女が声を絞り出した。紫の小さな角を二本、額から生やしており、高い身長で二人を見下ろしている。が、黒いロングの髪から覗く赤い目はビクビクと怯えていた。二人がその少女に振り向くと、少女はびくりと肩を上げた。
「イオン、邪魔すんなや。これはうちらの問題やさかい」
「あっ……あの……でも………」
「そうそう。ま、ホクピが謝ればすぐに終わることだけど」
「なんでうちだけ⁉ アマトも謝るべきやろ!」
「やだよ。私悪くないもん」
「うちだって悪くない!」
「あああ………」
半泣き状態になるイオン。そんな彼女など気にも留めず、ホクピとアマトは再び言い争いを始めた。傍観者達も呆れた目で見ていた。ファイリアはというと、今度は苦笑して彼女達を指差した。
「いま喧嘩をしている二人が獣人、おどおどしている子が鬼だよ」
「鬼?」
「そう。以前は魔物の仲間だーって敬遠されていたんだけど、勇者様が必死に訴えて、今ではこうして学校にも通えるようになったんだ」
ファイリアのエメラルドの瞳が辺りを見回す。倣ってみると、たしかにイオンと似たような角を生やしている生徒が、ちらほらと見受けられた。恐らく鬼だと思われる。
「それでもまだ、嫌悪する人は一定数いるんだけどね……」
ファイリアが困ったようにため息を吐いた。そんな彼女を眺めながら、俺はふと思い出した。
―――たしかこのゲームは、『次代勇者』を魔物から守ることが目的だったはずだ。ということは、ファイリアの言う「勇者様」を守ればいいってことなんだよな?
「なあ、その勇者様ってどこにいるか知ってるか?」
小声で訊いてみると、ファイリアは小首を傾げた。
「え? 知ってるけど……」
「なら、そこまで案内してくれないか?」
ファイリアは目をぱちくりと瞬かせた。不思議そうに俺を見ている。
「何言ってるの? ナギサくんだって知ってるでしょ? 勇者様の居場所」
―――知っている? 俺が? 勇者の居場所を? そんな情報は知らされていない。ハゲになりかけのあのおっさんから、何も言われなかったぞ。
それに―――俺はエメラルド色の妖精を凝視する。
そもそも、ファイリアは俺と初対面なんだ。
なのに何故、そんなことを言ったんだ? どうして俺が、勇者の居場所を知っていると言ったんだ?
―――彼女は一体、何を知っている?
「おや? 喧嘩中かい? お二人さん?」
突如、校庭中に響き渡る男の声。辺りを見回しても、その声の主は見当たらない。ファイリアの表情は次第に険しくなっていった。
「まさか……こんなときに!」
「ファイリア、この声って一体―――」
「いいよいいよ。喧嘩ってのはさ」
遮られた俺の声、その犯人が現れた。ホクピとアマトの前に佇む、一人の男。浅黄色の長髪に碧眼。グレーの和服に黒いコートを羽織り、その服装とは似合わない西洋風の顔立ちで妖しい笑みを浮かべていた。額には二本の角が生えている。
獣人二人は驚いたものの、無言で男を睨んだ。
「ムカつくよねぇ。そっちが悪いのに」
「……………」
「嫌だよねぇ。思い通りにならなくて」
「……………」
「なら、やっちゃえばいいじゃん」
男はにやりと笑った。その目は暗く青い光を放ち、何故だか目が離せなくなってしまった。
男の声が―――脳内に直接響くようだ。
「―――そんな奴、殺しちゃえよ」
「―――ナギサくんっ!」
名前を呼ばれ、はっと我に返ると視界が暗くなった。どうやら目を手で覆われたらしいと分かると、ファイリアの緊張した囁きが耳元で響いた。
「あいつと目を合わせちゃダメだ。洗脳されてしまう」
「せ、洗脳……?」
「ボクはホクピちゃん達を助けてくる。ナギサくんはなんとか逃げてて」
「え? なんとか逃げててってそんな投げやりな……」
俺の不安は無視され、視界が開放される。校庭中には、黒に塗り潰された人の姿をした「何か」が何人も見えた。ファイリアが唇を噛み締め、ホクピ目掛けて駆けていく。黒人間は黒い刀のようなものを持っており、それで彼女に襲いかかった。ファイリアは軽々しくそれを避ける。
「なっ……もしかして、いきなり戦闘開始⁉」
他の生徒達も、驚きながらも敵に立ち向かっていた。鬼の少年は手のひらに火球を作り出し、それを黒人間へと投げる。虎のような黄色と黒の髪をした少女は、黒人間の腕に噛み付いた。妖精の少年はナイフを振るっている。黒人間も負けじと、刀や手裏剣ようなものを投げていた。生徒達の真っ赤な血が、黒人間の真っ黒な血が飛び散る。
「一体どうすれば……」
そんな中、俺は何もできなかった。何もしないし何もされない。敵が襲ってこないのを良いことに、状況を理解しようと試みた。
奴らは一体何者なのだろうか? 敵であることは分かるのだが、急に現れて急に襲ってきて、一体何が目的なのだろうか? ファイリアの反応も素早かったし、生徒達も疑問を口にする者などいなく、むしろ勇敢に立ち向かっている。
こういうことは、この学園ではよくあることなのだろうか―――そこで脳裏に、男の言葉がよみがえった。
―――キシリア学園には、次代勇者を狙う魔物がしばしば現れます。あなたはその魔物から次代勇者を守り、世界の未来を救って下さい。
「つまり………あれは魔物?」
人間でないのはたしかだし、正常な種族でないのも見て分かる。であれば、勇者を狙う魔物だろうか? ゲームのストーリー的に考えれば、その可能性は十分にある。
「なるほど、あいつらから勇者を守る……」
そこまで整理できたが、ふと疑問に思った。
―――俺はこの世界で、一体どうやって戦うのだろうか? 武器も無ければ魔法も使えない。日が経つにつれ何か技を習得したりするのだろうか? それともやはり、自主的に剣なり銃なりを習った方が?
「レベリングシステムはどうなってるんだ……? ストーリーに沿えば強くなれるシステムなんだよな……?」
若干の疑問と課題が見え隠れし、先行きが不安になり始めたその時、一瞬視界に映った光景に、動かそうとした足を止めた。激しく争う中で、怪我をした一人の少女が倒れていたのだ。彼女は苦しそうに顔をしかめ、うずくまっていた。
「あんなところに怪我人! だが……」
戦闘は未だ続いている。丸腰の俺が飛び込んで、果たして無事で済むだろうか。せめて武器の一つでもあれば良いのだが……。
―――しかし。
「…………どんなゲームの主人公も、最初は丸腰だ!」
そう自分を奮い立たせ、少女へと駆け寄った。運が良いことに、流れ弾に当たることなく、無傷で目的地へたどり着く。
「大丈夫か⁉」
少女の左の太ももに手裏剣が深く刺さっていた。傷口から真っ赤な血が流れ、鉄のにおいを鼻が感知する。
「しっかりしろ!」
少女の肩を軽く叩く。うっすらとまぶたを開けた彼女は、黒い髪から覗かせる青い瞳で俺を見上げた。だんだんと目は開かれ揺れ動き、顔も青ざめていく。
「あ………あ………!」
「なに? どうした? 傷が痛むのか?」
顔を近付けると、少女の目がカッと見開かれた。
―――瞬間、背中に鋭利な感触が突き刺さった。
一瞬何が起こったのか理解出来ず、痛みだけが溢れてくる。突き刺さった異物が抜かれ、おそるおそる振り向いた。
背後には、赤く血濡れた刀を振り上げた魔物がいた。
「ッ―――!」
反射的に体が右へと動いた。刃が左肩を切り裂く。新たな痛みに悶え、俺はその場に倒れた。緑色の芝生はペンキでも落とされたかのように、どんどん赤く染まっていく。起き上がろうとしても、腕に力を入れることが出来なかった。顔を上げると、魔物が刀を振りかぶっていた。
―――まさか、もうゲームオーバーになるとは思ってもみなかった。このゲームを少し舐めていた。結局勇者がどんなキャラかも分からなかったし。ああ、それにゲームオーバーだと、罰ゲームもあるんだっけ。
力が抜け、倒れ伏す。魔物の足を眺めながら、ぼんやりと死を覚悟した。へらへら笑う男の顔が脳裏にちらつく。
一体どんな罰ゲームをやらされるのだろうか。どうせなら思いっきり、ど派手に、後腐れないもので―――。
――――――――ゴトン
突然目の前に落ちてきた、黒くて丸い何か。すぐに状況が飲み込めず、体が硬直する。髪のように細い何かは頂点から垂れ、その頂点と対に位置する部位からは、太い筒のようなものが生えている。その筒からは黒くドロドロした液体を流し、鉄のにおいが漂ってきた。
やっと理解した。それは、さっき俺を殺そうとしていた「顔」だ。
何故、魔物の顔だけが目の前に転がっているのか。首から漏れる液体は何なのだろうか。急激に増大した鉄のにおいは何なのだろうか。何故、俺はまだ生きているのだろうか。
―――その時、「体」が「顔」の後ろで仰向けに倒れた。
そこで全て理解した。
「ぐッ…………」
理解した瞬間、急な吐き気に襲われた。口を手で押さえ、力を込めて上体を起こす。死体を視界から無くすように顔を逸らすと、一人の少年に気付いた。銀色の髪に赤い目で、鋭くこちらを睨んでいる。中等部の制服から伸びる手には、黒い液体に染まった剣が握られていた。
「そいつを助けてくれてありがとうございます」
少年がそう言いながら近付いてくる。俺の腕を掴むと、そのまま思いっきり引っ張られた。体が浮き、少し離れた芝生に倒れ込む。突然のことで理解が追い付かず、一拍遅れて俺は起き上がった。
「なっ……!」
「あとは僕が連れていくんで」
振り向くと、少年は少女を抱き起こしていた。苦しそうに呼吸している少女は、一度俺を見て、ゆらりと立ち上がる。少年に連れられ、その場から立ち去っていった。
あまりに突然で、かつ想定外のことで、茫然としてしまった。俺も怪我をしているっていうのに、連れていってくれないのか? 知り合いじゃないから見捨てるって?
「………………あれ?」
その時ふと、思い出した。自身の左肩をそっと触ってみる。驚いて、視線をそこへ落とした。
―――切れた制服の布から見えていたはずの傷口は、その痕すら確認出来なかった。
「ナギサくん!」
ファイリアの叫び声に振り向いた。体だけでなく顔まで、全身に傷を負った彼女が走ってくる。ファイリアは俺の姿を確認すると、安堵の息を吐いた。
「良かったよ。生きていて」
「ファイリアこそ怪我してるけど……大丈夫なのか?」
「ん? ああ、大丈夫。こういうのには慣れているから。あの二人も、もう大丈夫だよ」
ファイリアの背後で、和装の男と戦うホクピとアマトが見えた。ホクピは鋭い牙で男へと噛み付こうとする。間一髪で避けた男に、アマトの尖った爪が振り下ろされた。彫りの深い顔に、四本の傷が生まれる。
ファイリアが手を差し伸べてきた。その手を掴んで立ち上がると、ファイリアは辺りを見回す。
「それじゃあボクらは、怪我をしている子達を助けにいこうか」
「そうだな」
「ナギサくん、戦えないんだもんね?」
にやりと笑い、俺の左肩をポンと叩くファイリア。そこに痛みは生まれなかった。彼女は負傷した生徒を見つけると、一目散に駆け出した。襲ってくる魔物は魔法で蹴散らし、振り向いて俺を呼ぶ。
―――彼女には色々と訊きたいことができた。しかしそれも、この騒動が終わってからだ。今はこの場を収めるために集中しよう。
疑問を心の隅に追いやり、俺はエメラルド色の妖精へと駆けた。
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