槃根錯節
良妻
吾妻の妻は近所でも評判の美人であった。帰国子女、ブロンドの髪がひとたび風に靡けば感嘆の息が周囲から漏れ、夫である吾妻に嫉妬と羨望の眼差しを送っている。それはもう日常茶飯事、されど妻は動じることもなく、むしろ二人の仲睦まじい姿を見せびらかすことを躊躇することなく毎日を幸せに彩っていた。彼女は大手企業の社長秘書をしており、吾妻もまた大手企業の若手部長として活躍していた。
会社同士の会合の席で知り合った二人はまもなくして結婚、バージンロードは500メートルを優に超え、参列者は双方の親族、会社役員に幼稚園時代からの旧友で埋め尽くされていた。新婚旅行はヨーロッパ各国を巡り、帰国後に完成したマイホームはローンではなく一括払い、現金で買った5LDKである。二人にしては大きいと感じていた吾妻ではあるが、ある日、バリバリと仕事をこなしていた吾妻のデスクに一本の電話が届いた。それは愛する妻からの電話だった。
そして吾妻は浮遊能力を無意識に使い、まさに天にも昇るような思いで満ち溢れた。電話の内容は、妻が妊娠したという報告であった。その報告を受けた吾妻はそれを社長に報告すると「今すぐ会いに行きなさい」と優しく吾妻にタクシー代を手渡してきた。感涙し、前が見えないほどの涙があふれ出す。祝福の拍手に見送られ、タクシーに乗り込む。高速を使ってものの数分で到着したマイホームに駆け寄る。
鍵を開け、家に入ると、産婦人科から帰宅していた妻がお腹を擦りながらリビングのソファーで女神の微笑みを浮かべて待っていた。吾妻は歓喜し、持っていた鞄を放り、妻の下へと駆け寄った。
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