放置
吾妻は畦倉あやせと一緒に自分の部屋に戻り、藤堂るりと合流、ぽっかり穴の空いた床を三人で眺めながら、最初に、何かを思い出したように藤堂るりが口を開いた。
「そういえばこの部分、千枚瓦さんに以前この部屋を物置部屋として貸していた時にとんでもないぐらい大きなトレーニング機材を置いていたわね。長いこと置いてあったから、そのせいで弱っていたのかもしれないわ」
「じゃあ僕のせいじゃないってことですよね?」
恐る恐る訊ねるが、彼女は何も答えず、畦倉に顔を向けた。
「それだけじゃないわね。どうやら、畦倉さんにも原因があるようだし」
彼女に言われて、畦倉は咄嗟に背を向けた。あからさまで、心当たりがしっかりあるとわかる。穴から畦倉の部屋を覗き込み、藤堂るりは言う。
「改装しまくったわね? 天井部分がすごく薄い。それに押し入れがなくなってる。取っ払って広くしたのね?」
「ああ、だから広く感じたのか」
違和感の正体に気付かされ、どこかすっきりした吾妻は畦倉に向き直して藤堂るりと一緒に畦倉を見た。当人は口笛を吹くようにして唇を尖らせていたが、あまりにもわざとらしい上に、勝手に改装したことに気付かれての動揺を隠しきれていないのは、素人目でも見抜けるほどの演技だった。
「まったく……千枚瓦さんも畦倉さんも好き勝手やって……」
昨晩のように怒るものだと吾妻は思っていた。しかし、藤堂るりは呆れたといったふうに笑って「お祖父ちゃんは本当に甘い人ね」と畦倉の額を人差し指で小突いた。
「もう古いアパートだから仕方ないわ。この穴に関しては、目を瞑りましょう。ただし、改装に関しては規則違反、補強工事を入れるから、予定が決まったら知らせるわ」
「……はい、すみません」
「反省しているのならよし。じゃあ、とりあえず業者に連絡を入れてくるわ。解散!」
と、藤堂るりと畦倉あやせが部屋を出て行く。残された吾妻は床に空いた穴を見つめて、はっとする。
「僕の部屋、しばらく穴空いたままですか」
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