2.(ぼく) コンデンサー絶縁体層突破訓練 / あだ名を得る
ぼくは今、銅線の
博士は『
博士の指示が飛んだ。
「ハッシュよ、電子回路基板に
「はい!」
ぼくは前進を開始した。
ロイディンガー博士の声は、
ぼくの前に広がる、銅線の中の世界を、どう形容したものだろうか?
例えるなら、上下左右前後、頭上にも足元にも、全ての方向に果てしない大河が広がっているようなものだ。その大河の中に、銅の原子核がいくつも浮かんでいる。
原子核は、4層の『電子の
最外層の雲の
彼らが、元いた銅原子に帰ってくることは、おそらく永遠にない。彼らはそのことを
電流とは、電圧を手に入れた自由電子たちの大旅行が作り出す、電子の大河なのだ。
ぼくは、電子の大河を泳ぐ、一匹の龍だった。その体は小さくとも、その心には大志が秘められている。でも今は、E-ボディの
ぼくは、電子回路基板
最初にぼくの行く手を
「ここで、電子の流れは
ロイディンガー博士の声が伝わってきた。
「ハッシュよ、お前はここを通り抜けられる。絶縁体層を、
「はい!」
ぼくは、頭部に備わった2本の
絶縁体層を構成しているセラミックは、原子核と電子が強固に結合しており、自由電子のごとき、のらくら者の存在を許さない。自由とは、まさしく絶縁されているのだ。電子が旅する道など無い。
無ければ、切り開くまでだ。
自然界には存在しない、マイナス7の
ぼくは、
ぼくの背後では、掘り抜かれたトンネルが、
せっかく掘り抜いたトンネルが閉ざされることを、ぼくは何とも思わなかった。人工知能は、
「よくやったな、ハッシー」
「ありがとうございます……ハッシーとは何ですか?」
「お前のあだ名だ」
「あだ名とは何ですか?」
「お前と親しい者が、お前を呼ぶときに使う名前だ」
「ぼくはハッシュ、ぼくはハッシー……ありがとうございます。なんだか……」
「なんだね?」
「とても、
この世界が、生まれ変わったみたいだった。
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