act.3-2
西暦2098年6月15日 7時00分
合衆国宇宙軍司令部艦 ユニヴァース・ワン
キャンプ・ブラックシュガー
ラビ・デルタの自室
元々アーマースーツ乗りだった者も、戦闘機乗りから宇宙へ上がってきた者達も、3週間もすればすぐ教える側の立場になるだろう。
大急ぎで建造されている空母へ次々配属され、その場で新人を教えながら自身も訓練する。そんな未来が目に見えている。
それ程今の宇宙軍には人が居ないのだ。
所詮出来たばかりの寄せ集め軍隊。他の国も鼻で笑っているだろう。
俺は何の為にここに居るのだろう。
“白い鳥”に襲撃され、部下を、帰る場所を失った。その時、白い鳥を操っている人間達へ復讐を誓った。はずだった。
しかしその襲撃は、火星から地球の調査へ来ていた一人の少年の起こした事故でしかなかった。
そして、その時同時に地球へ来ていた少年クロ・エマを捕らえ。今は何故か俺の部下に居る。
……俺が宇宙軍に居る理由は何なんだ?
この2か月、自分が分からなくなってきた。
ラビ・デルタは、憂鬱な自分の体をベッドからなんとか剥がし起こす。
時計は7時を指していた。今日は新たに配属されたパイロット達の教育が朝から待っている。
ガンドッグ達テストパイロットらは、新たに配備された空母へそれぞれ配属され、新兵の教育に身を投じる事となる。
キュリオスに残ったのは、俺とアレックスとバーニーの3人のみ。仕事を始めるか。
西暦2098年6月15日 9時00分
合衆国宇宙軍司令部艦 ユニヴァース・ワン
キャンプ・ブラックシュガー
「全員、揃っています!」
「えーでは、1班は第二宇宙港に移り、実際にスーツに搭乗して貰う。2、3班はシミュレーターで訓練だ。1班は俺とアレックス、2,3班はバーニーが担当する。1班、着いてこい。バーニー、そっちは任せた」
「あーい、2,3班はついてこーい」
「スゲェ、本物のデルタ少佐だ」
「俺も1班がよかったな~」
第二宇宙港へバスで向かい、アーマースーツの格納庫へ入る。
全員分の20機、16mの巨人がずらりと並び鎮座している。こう見ると壮観だ。
メカニック達が各機体に付き整備している。
訓練兵達が使用するのは、俺達テストチームが使っていた機体ではなく、前世代のノーマルのX-09011だ。
目視で識別し易い様に、白と赤のカラーリングが施されていた。
今日の訓練に合わせ、俺達がテストに使っていたPXF-98も第二宇宙港にキュリオスから移動しておいた。
他の部隊も訓練する為、大量のアーマースーツが第二宇宙港中に置かれていた。
「各自、自分のコードと同じ番号の機体に乗れ。奥から1~20に並んでいる」
「了解!」
全員がコックピットに乗り込んだのを確認し、起動チェックを行う。
「全員、主電源ON。送電、モニター、無線チェック!」
ラビの乗るアーマースーツの外部スピーカーを使い指示を出す。
≪2号機、OK≫
≪6号機、OK≫
≪15号機、OKです≫
……
全員OKである事を確認する。
「OK、ここからは無線を使うぞ。生命維持装置、気密、各種センサー、チェック」
≪教官、Gセンサーが作動していません!≫
「誰だ? まず先に自分のコールサインを言ってから無線しろ」
≪スイマセン。16号機、Gセンサーが作動していません≫
「アレックス、診てやってくれ」
「了解」
アレックスが自身のスーツで16号機の前まで飛び、訓練機のコックピットへ移るのが見えた。
「それ以外の奴等は続けるぞ。各スラスター・モーター稼働チェック。完了後、メインエンジン点火」
≪≪≪了解≫≫≫
各々がスラスターや、マニピュレーターの動作を確認した後、エンジンへ火を入れる。
キーーーーンと唸るエンジンの起動音に続き、エンジンが一斉に点火し爆音が格納庫に響く。
「全機、そのまま待機。16号はどうだ?」
≪こちらアレックス、16号のセンサーが動かない。予備機を使う、先に出ていてくれ≫
「了解。全機、機体ロック解除。俺に続いてハッチ前まで移動」
≪≪≪了解≫≫≫
全員の声から、若干の緊張を感じ取る。
それぞれの機体の燃料・電源ホースが抜かれ、メカニック達が撤収する。
壁と繋がっているロックを解除し、機体がフリーになる。
「こちらキュリオス1-1。訓練の為、キュリオス隊22機発艦する」
≪ユニヴァース・ワン、了解。ハッチロック・フリー、ハッチオープン。エリアクリア、エリアクリア。ゴー≫
「了解。全機発艦!」
空気が抜かれ、格納庫内は無重力状態となる。ハッチが開き、暗闇が広がる。
『スロットルを軽く吹かしながら、ジャンプ……』
心の中で唱えるように操縦桿とペダルを扱い、ハッチ付近までアーマースーツをジャンプさせる。
ハッチ前に着き、前を行くスーツが宇宙に消える。そして自身も、宇宙へ身を投げる。
リサ・マーガレット一等兵、コールサイン“3号機”。初めての宇宙。
海に出た瞬間、制御スラスターを吹かし過ぎ、機体が安定しない。
「ハァッ……ハァッ……!」
辺り一面の暗闇、地面がない恐怖がリサを襲う。
≪3号機、あまり離れるな。機首を上げてこちらに続け≫
ラビ・デルタ少佐の声が聞こえ、少し冷静になる。
「りょ、了解です」
メインモニターに少佐の機体を捉え、そちらへ向かう。
≪こちら16号機、合流します≫
≪同じくアレックス、到着~≫
2機のアーマースーツがユニヴァース・ワンから出たのが分かった。
「了解。軽く流す。全機俺に続け」
≪≪≪了解≫≫≫
適当に飛ばしながら、後続の訓練機達をチェックする。
訓練兵達は元々パイロットの者が多いが、全く経験のない人間も居る。
たしかまだ10代の人間も数人いたはずだ。
だがチェックしながら見ている限り、皆いいセンスをしているのを感じる。
クロといい、こうも子供を利用しないといけないとは。再び罪悪感がラビを襲う。
40分、ユニヴァース・ワン周辺宙域で飛行テストを行った。
「全機、帰艦するぞ。アレックス、先導してくれ」
ラビが全員へ通信を開く。
≪アレックス、了解≫
「こちらキュリオス1-1。キュリオス隊全機帰艦する。第二宇宙港への進入許可を」
≪ユニヴァース・ワン、了解。ハッチオープン開始。入港後、全機6番格納庫へ移動せよ≫
ユニヴァース・ワンの巨大な口が開いたのを確認し、アレックスが先導している隊を後ろから見守る。
周りを見渡せば、他の隊も同時に訓練を行っているのが見える。
また、周辺宙域の警戒任務に当たっている機も見えた。
広い宇宙に、これだけの人・物が所狭しと浮かんでいるのを見ると、不思議な感覚に囚われる。
「全機、ユニヴァース・ワンの回転軸に合わせ、十分に減速してから着艦すること。アレックス、先にお手本を見せてやれ」
≪了解≫
「アレックス少尉に続き、1号機から順に着艦しろ。その後はデッキクルーに従え」
≪≪≪了解≫≫≫
離陸は簡単だが、着艦する時が一番難しい。俺も今まで何度緊急着陸用のネット(*1)に世話になったか。
≪こちらユニヴァース・ワン。キュリオス隊、着艦どうぞ≫
「キュリオス1-1、了解」
アレックスが着艦したのを見計らい、訓練機へ後を追わせる。
1号機が着艦するが、減速が足らず機体がスライディングし転倒してしまう。
≪スイマセン!≫
≪はい、ドンマイドンマイ! 起き上がれ、後ろがつかえてんぞ~≫
≪了解……≫
アレックスと訓練兵の通信が聞こえた。
そこから2号機、3号機は無事に着艦した。
4号機が着陸態勢に入った時、ユニヴァース・ワンから通信が割り込んでくる。
≪着艦止め! 船首側よりデブリ接近!≫
「了解、着艦やめ……」
そう言いかけた瞬間、高速で飛んできたデブリの一つが4号機に直撃する。
≪え……≫
4号機から一瞬だけ通信が入る。
デブリが左脚部に直撃し引き千切られる。吹き飛ばされる4号機。
「全機ユニヴァースから距離を取れ!!」
≪了解!≫
≪うわァァ!!≫
≪あたる!?≫
一気に隊は乱れ、場は混乱する。
ラビの機体も、細かなデブリの破片を浴び機体が衝撃に包まれる。
デブリ群はユニヴァース・ワンとキュリオス隊の丁度真ん中を通り抜ける様に向かってきた。
≪姿勢制御できません!!≫
4号機から悲痛な叫びが聞こえる。
メインカメラで4号機を捉える。が、残った右脚部のスラスターが暴走し、高速で弧を描きながら宙を舞っている。
「エンジンカットしろ! 今向かう!」
しかし、4号機の上方から、第三宇宙港のカタパルトが向かってきているのが見える。
『ぶつかる……!』
そう思った時、ユニヴァース・ワンの上空スレスレを飛び、4号機に飛びついた機体があった。
「捕まえた!!」
その機体が4号機をホールドし、ユニヴァース・ワンから離脱する。
それは、先に着艦していた3号機、リサ・マーガレット一等兵であった。
≪3号機!? よくやった! そのまま捕まえていろ!≫
ラビから通信が入る。
「了解です……!」
4号機の脚部スラスターは全開のまま。3号機が姿勢制御スラスターで逆噴射を掛け、無理やり減速させる。
≪OK、そのままだ≫
ラビが到着し、アーマースーツのナイフで4号機の右脚部を股関節から切り離す。
ようやく静止する4号機。
≪3号機、よくやった。4号機は俺が牽引する。外した右脚部を回収して帰艦しよう≫
ラビも安堵からか、口調が緩む。
「……はいッ!」
リサは、あのラビ・デルタに褒められ高揚した。
同日 11時20分
合衆国宇宙軍司令部艦 ユニヴァース・ワン
キャンプ・ブラックシュガー
第一病棟 101号室
「身体機能は正常です。急加速で気を失ったまま睡眠状態に入っているだけです」
「そうですか、ありがとうございます」
ラビは軍医に礼を言い、軍医は部屋を後にした。
4号機パイロット ザック・フォリス上等兵のベッドの脇の椅子へ腰かける。
こいつのプロフィールを見ると、空軍学校に在籍中であったが、途中で宇宙軍を志したようだ。
下(地球)での飛行経験はたった3回。
宇宙で最悪のファーストフライトを迎えさせてしまった。
「失礼します」
女性の声がする。一人の若い兵が入ってくる。ラビがドアの方を向く。
「ああ、3号機の……」
「リサ・マーガレット一等兵です」
堅苦しい彼女の敬礼を見る。だがどこかで見たような……。
「今朝はお前の機転で、コイツは助かった。本当によくやったな」
「ありがとうございます……。容体はどうですか?」
「特に怪我も無く、今は眠っているだけみたいだ」
「それはよかったです。……どうかしました?」
「別に口説き文句じゃないが、お前、どこかで会った事あるか……?」
ニヤリとリサの口元が緩む。
「クリス・エマさん」
一言彼女が言う。
「え?」
ラビが露骨に戸惑う。
「アルファシティ、ファースト・ストリート・カフェ。バーガーセット2つ、コーラとジンジャーエール」
得意げにリサが言う。
ラビが驚嘆する。
「あの時の店員!?」
「フフ、そうですぅ~」
「あの、宇宙軍に連れて行けとか言っていた……? か、髪切ったんだな」
「つっこむ所そこですか?」
彼女が笑いながら言う。
廊下に場所を移し、自販機でコーラを買う。
買った一つのコーラをベンチに腰かけているリサへ渡すラビ。
「ありがとうございます」
細長い樹脂製のボトルの口を開ける。
「しかし、なんでクリスの名前を?」
「実は、あの後私お店辞めて、クリスさんの家に居候させて頂いていたんですよぉ~」
「はァ……。なんでここへ来たんだ?」
「いやぁ、ずっと家から出て人の役に立つ事したいなって思ってたんです。その時に出会ったのがラビ……少佐だったってダケです」
「オイオイ俺が原因かよ……」
ラビは落ち込む。
「いや、入隊しようと決めたのは私ですから」
キリと彼女が返してくる。
「そっか……」
「所で、クリスさんの事は気にならないんですかぁ?」
「なんでだよ」
「いやぁ~2人ともお似合いだったと思んですけどねぇ~」
「はァ……? あまり上官をからかうんじゃないぞ」
「フーン、了解です~」
西暦2098年6月28日 13時10分
ブラジル セアラー州
フォルタレザ国際宇宙空港
(ブラジル標準時 10時10分)
「あーい、チェック済コンテナは1番倉庫へ移動! 次、コンテナチェック! H-8925~8930番!」
作業員たちがシャトルへ積み込む荷物の検査を行い、振り分け、各倉庫へ運搬を行っていた。
「監督―! 上の人から連絡―!」
「あァ~? なんだこんなクソ忙しい時によォ……」
監督と呼ばれていた男は事務所へ戻り、内線を取る。
「はい変わりました。……はい了解です」
内線を切り、現場へ電話を回す。
「聞こえてるか? 次のI-1からI-8番まではコンテナチェック不要。7月14日積み込みだから……大分先だなァ、5番倉庫にでも回しておけ」
≪了解です~≫
受話器を置き、再び作業場へ戻る。
*1:減速不能な機体を、船側で機体を受けとめる為の巨大な網。
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