act.2-5
西暦2098年4月26日 8時00分
アメリカ合衆国宇宙都市艦フリーダム
第1ブロック ケネディ市
呼び鈴の音が部屋に鳴り響く。
「なんだこんな朝から……」
仕事着に着替えている男が苛立ちながら玄関を開ける。
玄関のドアを開け、その男は立ち尽くす。
「ラビット……!」
「ただいま、親父……」
ラビ・デルタは、実家のある都市艦へ来ていた。
「帰ってくる時くらい連絡寄越せバカ息子が」
男はイライラした口調ながらもコーヒーを淹れ、ラビの前に出す。
「あぁ、忙しくて……」
「……まぁ、無事でよかったよ。立派になったな」
「お、おう。ありがと……」
「はァ~、スリルを求めて次は宇宙人と戦いだしたか。我が子ながら恐ろしいわ」
「なんだよその言い方」
「母さんも天国で静かに眠ってられんだろうな」
ラビの父はネクタイを締め、ジャケットを羽織る。
「んじゃ、俺は仕事行くから。家を出るならいつもの場所にカギは置いておけ」
「はいはい」
そう言い残し、父は家の鍵を置いてそそくさと家を後にした。
「何も変わってないな」
リビングのソファーに座ったまま、辺りを見渡す。
壁に無造作にピンで留められた母さんの写真も、親父のタバコの所為で黄ばんでいる。
親父は一人で何を考え、どうやってここで暮らしているのだろう。ふとそんな考えがよぎる。
ラビは新たに創設された宇宙軍基地に住む為、私物をまとめに実家まで来た。
が、私物のほとんどは輸送船リリアンマイン号に積んでいたし、ここにあるのは昔着ていた服くらいだ。
適当なバッグにまだ着れそうな衣類や昔読んでいた本を適当に詰め、すぐに家を出た。
家の鍵は、玄関のマットの下に隠して。
近所の散髪屋に来た。ガキの頃からよく通っていた場所だ。
知っている店員はもう居なかったが。
今まで伸ばしていた髪も切り落とし、ジャーヘッドに刈ってもらう。ヒゲも剃り落としてもらう。
店員にカミソリがまだ手に入る店の場所も教えて貰い、店を後にした。
教えて貰った郊外の刃物店でカミソリと砥石、研磨用の布を買い、バスに乗って更に町の外を目指す。
広場に、無数の墓石が立ち並んでいる。
ラビの母の墓石の前に立ち、敬礼する。そして、しゃがみ込み母に話しかける。
「母さん。俺はなんだか大変な事に首を突っ込んでしまったよ……。俺を守ってくれ、アイツも……。じゃ、またこんど」
ラビは宇宙港を目指し、そこから合衆国特別工業都市艦“ナンバー・ツー”へ向かった。
西暦2098年4月26日 13時00分
合衆国特別工業都市艦ナンバー・ツー
「ラビ・デルタ少佐、着任しました」
宇宙軍仮司令部へ入り、宇宙軍大将ジェームズ・ビーデンと面会する。
大将とは、先日の宇宙軍設立式ですでに顔は合わせてある。空軍少将と兼任である。
「ようこそ、宇宙軍司令部へ。と言っても、本党はまだ工事中だがな」
窓の眼下に、巨大な建物が建造中であることが分かる。
「閣下。宇宙軍の兵は、現在どれほど居るのですか? 正直あちこち飛び回っていたもので、宇宙軍と言われてもピンと来ていなのですが……」
「兵、か。今現在戦える兵は君一人だな」
「え……、“白い鳥”の護衛は、私一人で行うのですか?」
「いいや。明日、空・海軍のパイロットから選抜したアーマースーツのテスト部隊が上がってくる。その部隊で行う」
「そうですか……」
「民間や、各軍から宇宙軍への転任希望者も多い、近い内に採用試験もするだろう」
「民間人も対象ですか? 情報漏洩等の危険があまりにも……陸軍や海兵とは違います」
「まぁ、楽しみにしていろ」
「はぁ……」
ラビは不服そうに返事を返す。
「さて、来る途中に分かったであろうが、現在工業艦ナンバー・ワンと接舷している。新型アーマースーツの開発・運用テストを、しばらくの間はこの状態で進める。その方が連携が取り易いだろうしな」
「それは同感です」
「で、早速だが、新型機を受領しにナンバー・ワンへ向かってくれ。ユーキ・アルス博士が待っているはずだ」
「分かりました……。失礼します」
ラビは不安を胸に抱えたまま部屋を後にする。
更衣室でパイロットスーツへ着替え、ナンバー・ワンへ向かった。
西暦2098年4月26日 13時20分
合衆国特別工業都市艦ナンバー・ワン
「おお、デルタ少佐」
「何だか毎日顔を合わせているな」
ラビは笑いながらユーキ・アルス特務大尉に話しかける。
「じゃ、早速新型のアーマースーツをお渡ししよう」
「頼む」
今回は地下の倉庫ではなく、メイン宇宙港とは別の港に案内された。
「これが……」
「PXF-98-1、と名付けてはいるが、X-09011のただの改良型だ」
4機のアーマースーツが並べられている。
「09011……今使われてるアーマースーツか。だが、見た目は随分変わったな」
「ま、表向き工業用ロボットから、本物の戦闘機に変わったワケだしね。主な変更点を教えるよ」
X-09011から変わった点。
ステルス性向上の為、機体外装を熱遮断装甲に変更。またレーダー波を乱反射させる為、流線と直線を組み合わせた様な形状の装甲板で覆われている。
目視戦闘になる事も考慮し、機体はブラックとダークブルーで塗装されている。
スラスター推力も強化され、姿勢制御スラスターも増設された。それらを制御する為のコンピューターも新型の物に変わっている。
「この短期間でよくやるもんだ」
「まぁ、昔から戦闘用に転用する事は考えられていたからね」
「準備が良い事で」
「武装は前からある90mmマシンガンと、あと試作の120mmライフルもある。あとアーマースーツが携行可能な小型レールガン等も検討中だ。それに180mmの直撃にも耐えられるシールドを用意した」
「白い鳥にライフルが当たるかな?」
「まぁ正直、宇宙空間で直進運動するだけの弾が当たるかどうかなんて、神のみぞ知るって所だろうね。白い鳥の運動規則が分かれば予測射撃するプログラムも組めるだろうけど」
「他の武装は?」
「肩と足にハードポイントがある。そこへミサイル等を搭載する事も可能だ。それに、背部には通信機材やコンテナと合体する為に使用していたハードポイントも残してあるので、今後戦闘用の“ランドセル”も開発予定だ」
「ふっ、ランドセルね。了解した」
「この宙域はアメリカ合衆国の物だ。今から乗ってみるかい?」
「んじゃ、たまにはソラを泳ぐか」
ラビは少し上機嫌で、アーマースーツのコックピットへ入る。
同時刻
合衆国特別工業都市艦ナンバー・ワン 船外
≪少佐、ラジオチェック。OK?≫
「OK。慣らしで少し流す」
≪了解。操作系は先の説明通りだが、不明な点があれば聞いてくれ≫
「了解」
メインスラスターのペダルを踏み、宇宙を駆ける。
何て加速だ……! 今まで乗っていたアーマースーツなんて目じゃない。
レスポンスも良いし、姿勢制御もバッチリだ。
ラビは新型のアーマースーツに惚れ込んだ。新しいオモチャを貰った子供の様に。
また少し飛び機体を制止させる。
武装はしていないが、ターゲットモニターを起動し、飛び立ってきたナンバー・ワンを眺める。
少し離れただけで、全長150kmもある船もこんなに小さく見える。
宇宙は広いな。
機体の向きを変え、地球を正面モニター一杯に捉える。
青く、美しい星だ。
宇宙から見れば、あんな荒廃した星だとは誰も分からないだろう。
きっと、火星に住んでいる人間も分からなかったはずだ……。
≪ラビ、大丈夫か? 機体トラブルか?≫
ユーキから通信が入る。
「ああ、すまない大丈夫だ。コイツの性能に惚れ惚れしていたのサ」
≪ならいいが≫
西暦2098年4月27日 10時00分
合衆国特別工業都市艦ナンバー・ツー
宇宙軍仮司令部内 会議室
「――えー以上が、明日のシャトル護衛任務に就くメンバーである」
参加者一覧を読み上げ、ラビが壁に掛けられたモニターを起動する。
明日の作戦参加者へ作戦概要を説明する。
「明日標準時9時25分、座標19の12、上空400km地点にてシャトルと合流、そこから当艦までの護衛を行う。地球の引力に引きずり込まれないように気を付けろ。また、EU・ロシア・中国も極秘裏に宇宙へ軍事展開を行っている情報が入っている為、妨害行動の危険がある。そこで――」
モニターを動かし、部隊の配置図を出す。
「戦闘機でシャトル半径100km内の索敵・哨戒を行いつつ、ア-マースーツ隊がシャトルと随伴して行動する」
更にモニターの部隊配置図を拡大表示する。
「このように、戦闘機部隊はシャトル360°全方位をカバーする形で配置。アーマースーツ部隊はシャトル前方と、左右の3チームに分けて運用する。1200時より、戦闘機・アーマースーツ部隊それぞれのチームリーダーに従い個別訓練。1500時より、合同での演習を行う。私からは以上だが、質問はあるか?」
「はい」
一人の士官が起立する。
「交戦規定はどうなっていますか?」
「攻撃を受けたら反撃、が基本だ。だがしかし、無用に接近してきたりする敵偵察機等を発見した場合は威嚇射撃も許可されている。行動範囲はシャトルから半径250km内。武装は、他の都市艦と接近する可能性もある為、全て50kmで自爆する榴弾を使用。ミサイルも同様の射程距離でセットされている」
「了解」
「他には? では解散。各チームリーダーに従え」
皆が立ち上がり、それぞれの持ち場へつく。
西暦2098年4月27日 15時00分
合衆国特別工業都市艦ナンバー・ツー
15時となり合同演習が始まる。
空・海軍から来た戦闘機乗り達と、民間のアーマースーツの搭乗経験者(殆どが退役軍人戻りであるが)の混成部隊。
はたして上手く行くか。
≪こちら管制塔。アーマースーツ部隊全機発進を許可する≫
≪了解。GD-1全機発進≫
ラビは先に、仮想敵部隊を連れて宇宙へ出ていた。
遠くから戦闘機・アーマースーツ部隊がナンバー・ツーから発進しているのを見ていた。
アーマースーツ部隊を“GD”、戦闘機部隊を“SF”と呼称しているようだ。
≪少佐、部隊全機配置につきました。演習を開始します≫
「了解した。手加減なしで行くぞ」
「さ、仮想敵の御嬢さん方。準備はいいかな?」
≪へ、いつでもいいですよ≫
≪まさかデルタと一緒に、宇宙軍を相手に戦う日が来るとはな!≫
「あくまで演習ではあるが……あいつらがナンバー・ツーの20km圏内に入る前にシャトルを奪うぞ!」
≪了解!≫
敵役を買って出たのは、かつてリリアンマイン号で同じくデブリ回収作業をしていたアレックスとバーニーだ。
この二人も、元空軍の戦闘機乗りだ。アーマースーツの操作技術も上等で、頭のキレる男達だ。
ラビを先頭に左右後方に二人が付いて飛ぶ。そのままシャトルの直下100km圏内に入っていく。
≪へ、こいつァいい機体だ!≫
アレックスの恍惚の声が聞こえる。
「アレックス、この距離を維持しながらシャトルを狙撃しろ」
≪了解!≫
アレックスの持つ、120mm試作ライフルをシャトルへ向け放つ。アレックスの弾道計算は正確、シャトル直撃のコースだ。
しかし、一機のアーマースーツが射線上に立ち、ライフル弾を受ける。
自らが盾となってシャトルへの直撃を防いだのだ。
「ほぉ……。アレックスはこの辺りのデブリ帯を利用しながらシャトルを狙撃。バーニーは俺に続け!」
≪了解!≫
≪SF-9、敵アーマースーツを確認! 直下100km地点!≫
≪了解、SF-8,9。迎撃に迎え。GD-2もだ≫
≪了解!≫
その時、一瞬マズルフラッシュが見える。
≪不味いッ!≫
一機のアーマースーツが前に出て、“敵”の狙撃を食らう。
≪GD-2-2撃墜!≫
行動不能になったGD-2-2には、ライフル弾に仕込んであった蛍光塗料がべっとりと張り付いていた。
≪クソ! 武器の射程は50kmじゃなかったのかよ!≫
≪敵が俺らと同じ条件で襲ってくると思うか!?≫
≪落ち着け! SF-8,9は敵スナイパーを叩け! GD-2は向かってきている2機のアーマーをやる!≫
≪了解!≫
「バーニー! ミサイルで戦闘機を叩け!」
≪おっしゃ!≫
向かってくる2機の戦闘機へ向け、肩のミサイルを4発放つ。
更に腕に持った90mmマシンガンで牽制し動きを封じる。2機とも成すすべなくミサイルによって撃墜される。
「ナイス! そのままこっちに向かってきてるアーマー2機を相手してくれ、俺は本体を叩く!」
≪了解!≫
その間にもアレックスが狙撃を続け、シャトルの周囲に展開しているアーマースーツ1機と、戦闘機3機を戦闘不能にする。
≪すまねぇ隊長、アーマーはチョロチョロ動いて当たらねぇ!≫
「オーケーだ。俺が突っ込むから援護頼む!」
≪了解だ≫
アレックスの援護を受けながら、デブリを利用しシャトル後方から這い寄る。
シャトルをデブリ帯に通す事で長距離狙撃から逃れたか。が、こうやって接近されるチャンスを生む事も考えないとな!
「遅い!」
デブリの影から飛び出し、シャトル後方で待ち構えていたアーマー3機へ90mmマシンガンを叩き込む。
1機を撃墜し、残りの2機の懐へ入り込む。
≪何てマニューバだ!!≫
≪クソッ!≫
1機が右手に持っているライフルを捨て、ナイフに持ち替え切りかかるが、冷静に回避されコックピットを撃ち抜かれ戦闘不能になる。
≪3-3!? このォ!≫
残りの1機はラビと距離を取りマシンガンを放ってくる。が、まるでその1機を翻弄する様に飛び回り、弾を全て避けて見せるラビ。
≪ス、スゲェ……!≫
マシンガンの弾が切れたと同時に、思わず感嘆の声が漏れる。そして、コックピットを撃ち抜かれ戦闘不能となった。
「へ、へへっ……」
ラビの不敵な笑い声がコックピットに流れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます