act.2-2
西暦2098年4月23日 17時00分
国際宇宙都市艦 アルファ・アーカイム
メイン宇宙港
アメリカ合衆国要人専用シャトル SS-100機内
「――以上がジャパン政府からの通達です。そこで、在日米海兵隊とジャパン自衛隊とのタスクフォースを編成し、 “白い鳥”の捕獲作戦を実行します」
本国から届いた文章を、ラビの護衛の一人が読み上げる。
「作戦概要としては、白い鳥の潜伏箇所は、日本海に面した崖の中腹にある洞窟、高さ18mの箇所である為、ワイヤーでヘリへ鳥を固定し、そのまま懸架・空輸します。回収地点はそこから東南東50km地点にある、ジャパン自衛隊ジンマチ駐屯地です。作戦開始時は、標準時24日0400時、ジャパン標準時1300時です」
「マジかよ、すぐ開始じゃねーか」
ラビは時計を見ながら言葉をこぼす。
「ラビ・デルタさんは現時刻を以て、合衆国海兵隊へ大尉階級として復帰して頂きます」
もう一人の護衛が、持っていた海兵隊のIDカードと階級章をラビへ渡す。
「準備が早い事で」
「ラビ・デルタ大尉。後日正式な手続きを行いますが、今はこのままジャパンへ向かい、タスクフォースの指揮を執って貰います」
「はいはい、了解した」
「お願いします」
「人気者は大変だな」
ユーキ・アルスが皮肉交じりに横から言葉を差す。
「アンタも一緒だろ?」
「ハハ、確かにな。だがしかし、またと無い機会だ。是非頑張ってくれ」
「軽く言うぜ。まぁ時間もねぇし、今の内に休ませて貰うよ」
そう言い、シートを倒しラビは眠りに入ろうとする。
4日前からの怒涛の出来事の連続に、思考が追い付いていない。
クリスの事を思い出しながら、浅い眠りについた。
西暦2098年4月23日 18時00分
ジャパン トウキョウ都アオウミ区
ジャパン海上自衛隊/アメリカ海軍 アオウミ基地
(ジャパン標準時 4月24日3時)
「ラビ・デルタ大尉、ユーキ・アルス博士。お待ちしておりました」
滑走路脇の倉庫内でシャトルを降り、出迎えを受ける。
「ありがとう、ええと……」
「海兵隊第三遠征軍所属、ベネリ・ホーク中尉であります」
「こんな早朝にすまないね」
「いえ、“白い鳥”と戦った英雄と作戦に参加出来て光栄であります」
「いいよ、そういうお世辞は」
ラビは笑いながら流す。
「いえ、そういう訳では……分かりました。では、到着して早々で申し訳ないのですが、我々とヤマガタ県のジンマチ駐屯地へ向かい、ジャパン陸上自衛隊と合流します」
「了解した」
バスにユーキ、護衛の男達と共に乗り込み、別の倉庫へ向かう。
アイドリング中の輸送ヘリがバタバタと騒音を立て、待機している。
バスから降り、ヘリの後部ハッチから乗り込むと、すぐに離陸シーケンスに入った。
「CH-87……懐かしいな」
「我々はこれを鳥の空輸に使用します。コールサインは“ホース1”です。更にリトルバード(攻撃用ヘリ)3機も連れて行きます」
「なるほど。ジャパンからは?」
「ジンマチ駐屯地から陸上自衛隊1中隊規模、220人の動員が決まっています。現地での周辺監視や交通整備、懸架作業の手伝いをして貰います」
「ジャパンは、関わりたくなさげだな」
「我々にほぼ丸投げと言っていいでしょう」
「どこまでも変わらないな」
「ええ。では向かいましょう」
西暦2098年4月23日 19時30分
ジャパン ヤマガタ県ジンマチ区
ジャパン自衛隊 ジンマチ駐屯地
(ジャパン標準時4月24日4時30分)
駐屯地のヘリポートへ着き、臨時に建てられたであろう巨大なテントの司令室へ入る。
「合衆国海兵隊、ラビ・デルタ大尉。到着しました」
「同じく、ベネリ・ホーク中尉です」
「陸上自衛隊、リョウ・アキエダ大尉です」
お互いに敬礼しあう。
「私が自衛隊側の指揮を任されています。総指揮権はデルタ大尉にあります」
「了解した、宜しく。現在の状況説明を頼む」
「……あの、すまない。私も同席して良いかな?」
ユーキが横から入ってくる。
「申し訳ありません、こちらは……」
アキエダが聞く。
「DARPA"420事件"担当監督のユーキ・アルスだ。“白い鳥”解析担当に寄越された。技術面のバックアップも頼まれている」
「これは申し訳ありません、アルス博士。是非同席願います」
「どうも」
デスクに集まり、アキエダが立体モニターを起動する。
「現在白い鳥が潜伏している崖のリアルタイム映像です。ドローンで半径5km内を監視しており、スカウトスナイパーも3組配置しています。今の所誰も鳥には接触していません」
「発見したのは、昨日の朝だったね?発見者は?」
「はい、海上自衛隊の海洋観測艦『あかし』が標準時23日1時30分頃発見しました。その艦は標準時20日12時20分頃に落下した隕石と思われる物体の海底調査を行っていた所、周囲を警戒していた際に崖下の白い物体を偶然発見しました。それが巨大な鳥の様な物であると分かり、上層部の判断により公表はされていませんでした」
「発見から17時間か。どの国も、隠し事が好きなんだな」
ラビが茶々を入れるように言う。
「ええ、お互いに」
アキエダも皮肉を含め返す。
「その隕石は回収出来たのか?」
「はい、現在カナガワ県のISAS(宇宙科学研究所)にて解析中です」
「ではまだ白い鳥との関連性は分からないか……。そもそも研究所の連中に白い鳥の事は伝えてあるのか?」
「いえ、情報は行っていません。アメリカの発表は観たでしょうが」
「だろうな。鳥を直接調査に行った者もいないのか?」
「はい。上は対応にあぐねており、とりあえず監視を続けていた所、先程のアメリカ大統領の発表があった為、あなた方に押し付けた形です」
「なるほどな~。これから色々な国から鳥の処分を押し付けられたりしてな」
「あり得ますね。現状報告は以上です。では作戦概要に移ります――」
アキエダは淡々と話を進めた。
西暦2098年4月24日 5時10分
ジャパン ヤマガタ県ツキシマ区
(ジャパン標準時14時10分)
僕の鳥が見つかった……!?
「ケイさんすいません、ここで下してください!」
「え、えぇ!?」
ケイは急ブレーキを踏みすぐに車を止める。
「お願いです、先に帰っていて下さい」
「え、ちょっと!?」
慌ただしくドアを開け、車を降りるクロ。
腕に装着された端末を操作する。
「ちょっと、クロくん……?」
「早く帰って下さい!」
そう言い残し、大型ヘリを追うように走っていく。
遠くてはっきりとは見えなかったが、恐らくワイヤー等で固定しているだけだ。
破壊はしていないだろう。
オートパイロットモードを起動する。
同時刻
ジャパン ヤマガタ県ツキシマ区上空
“白い鳥”捕獲作戦日米混成即応部隊
在日米海兵隊 CH-87輸送ヘリ“ホース1”機内
≪ホース1! “白い鳥”が動いているぞ!≫
突如、随伴のヘリから無線が入ってくる。
「なんだと!?」
ラビは横のドアを開け、下に吊るしている白い鳥を見る。
羽を動かし、もがいている。
「大尉、落ちますよ!?」
一緒に乗っていた兵士に止められる。
「クソ、オートパイロットか、それとも生きているとでも言うのか!?」
すぐにドアを離れコックピットへ向かう。
「パイロット、このまま基地まで運べそうか?」
「これくらいの揺れなら大丈夫です!」
「分かった。様子を見ながら慎重にな」
「了解ッ」
続いて全部隊へ無線を繋げる。
「リトルバード各機、ホース1から距離を取って戦闘態勢のまま付いてこい」
≪了解≫
翼をばたつかせてワイヤーから逃れようとするが、上手くいかない。
「スラスター解放。地球人に渡すわけにはいかない……」
クロは静かに端末を操作する。
「ねぇ……クロ君?」
後ろから声がする。
振り向くクロ。
「ケイ……さん」
≪大尉! 鳥の羽部分が変形、スラスターらしき物が露出!≫
随伴のヘリから報告が入る。
「不味いな……。パイロット、白い鳥に振り回されるようだったら、即座にワイヤーを切り離せ」
「了解で……」
その瞬間ヘリが大きく揺れ、急激に前方へ引っ張られる。
≪鳥が加速開始!≫
「大尉ッ! 鳥をパージします!」
パイロットが鳥を懸架していたワイヤーを切り離す。
白い鳥が大空へ放たれ、巨大な翼を広げる。
美しい……。
ラビはその青空に広がる白い鳥を見て、そう思った。
≪大尉! 撃墜しますか!?≫
「やめろッ! こちらを攻撃してくるまで待機だ。下には民間人が居るんだぞ!」
はっと我に返る。
だが白い鳥は向かってくるどころか、下の畑へ向け急降下を始めた。
「各機、白い鳥を包囲したまま追跡しろ」
≪了解≫
畑に降りたなら、攻撃を加えるチャンスが生まれるかもしれない。
そう思いながら落ちていく鳥を追う。
「ケイさん、なぜ戻ってきたんです……」
「だって、クロくんがそんな険しい顔をしていたから……」
その時、空から何か落ちてくるのを感じた。
「……!?」
ケイが唖然と見上げる。
クロの背後に、白い鳥が降り立つ。
「ケイさん、お願いだから、早く離れて下さい……」
ゆっくりした口調で、子供を促すように言う。
2人は降りてきた白い鳥の翼に、守られる様に包まれる。
白い鳥の胴体部分のコックピットが開き、クロが乗り込もうとする。
≪“白い鳥“! 動くんじゃない、動けば発砲する!≫
拡声器を使い、ラビが上空から叫ぶ。
「包囲された……」
周りのヘリとかいう飛行機。速度はどれほど出るのだろうか。でも僕の鳥なら振り切れる……と思うが。
だが、ケイさんが居る……。
≪……大尉、白い鳥が民間人2人を翼で覆っています……。攻撃したら……≫
「分かっている。全機このまま待機」
クソ、あそこに居るのはここの住民か?それとも鳥のパイロットか……?
翼の向こう側に、ヘリが近づいてくる音がする。
「ケイさん、僕から離れて下さい。危険ですから」
「え……」
ダメだ、声が届いていない。
目の焦点も合っていない。思考が止まっている。
クロは一瞬迷ったが、ケイの手を掴み、コックピットへ一緒に乗りこむ。
「大尉! 民間人2人の反応が消えました。鳥に搭乗したと思われます!」
「クソ、各機鳥から距離を取って攻撃待機!」
その時、鳥がスラスターを吹かし、一気に飛翔し翼を翻す。
「各機、奴は海へ逃げる気だ! 海上に出たら攻撃しろ」
≪了解!≫
ラビは冷静に命令を下す。
どうやら鳥のパイロットも民間人に危害は加えたくない様だ。
「うぐっ……」
コックピットシートの後ろに無理やり乗っているケイさんが悶えている。
水平装置や耐Gショック機能も備わっているとはいえ、体を固定していないと危険だ……。
海へ逃げ、追手から逃れた所で、どこか陸地にケイさんを降ろすか……。
その時、ロックオンアラートが鳴る。
追ってきたヘリが機銃を放ってきた。
すぐに鳥の翼を動かし、体を逸らす。
すごい、本当に鳥の様に飛んでいる……。
だがしかし、鳥の様に舞ってはいるが、遠くへ逃げる気配が無い。
何か作戦を練っているのか、迷っているのか?
≪大尉、バルカンは命中していますが、効果が認められません≫
「ん……仕方ない、ミサイルの使用を許可する」
≪了解≫
機動力の低いこの輸送機では鳥に追い付けない為、交戦している様を後方から見守るしかない。
機銃が数発命中したが、損害は無い。
「クロくん……」
「ケイさん?……ケイさん?」
シートの後ろを確認しながら呼びかける。が、ケイは気を失ってしまった。
これ以上動き回れば、ケイが危険だ……。
その時、再びアラートが鳴る。今度はミサイルが来る。
すぐにスラスターを吹かし、縦横無尽に動き回るが、逃げられない……。
「くっ……ビーム砲を使う!」
羽前面のハッチが展開し、小さな穴の様な砲門が現れる。
その時、白い鳥の動きが止まる。
羽を広げ、スラスターを吹かし。
一瞬、時が止まったかのように空中に静止する。
次の瞬間、向かっていた4発のミサイルが一瞬にして迎撃される。
≪何が起こったんだ!?≫
≪ミサイルが自爆した!?≫
「各機うろたえるな! 攻撃態勢を崩すなァ!」
その時、全周波数帯の無線に少年の声が入ってくる。
≪“地球の”兵士の皆さん、こちらは抵抗する意思はありません! 同乗している女性の保護をお願いしたいッ!≫
「大尉! 白い鳥からの通信です!」
「! 繋いでくれ」
すぐにヘリのマイクを取り答える。
「白い鳥のパイロット、こちら合衆国海兵隊、ラビ・デルタ大尉だ。了解した。そのまま下へ降りろ」
≪分かりました、ありがとうございます≫
「リトル全機は戦闘態勢のまま待機」
≪了解≫
真下の山の頂上へ白い鳥が降り立つ。
コックピットを解放し、ケイを抱え降りる。
「抵抗する気はありません! この女性を保護してください!」
クロが空に向かって叫ぶ。
2人が降りてきたのを確認し、ラビが命令する。
「ホース1は降下し“白い鳥”に接近する。リトル3も降下し援護につけ。リトル1,2は上空待機」
≪了解≫
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