act.1-5

西暦2098年4月23日 12時00分

国際宇宙都市艦 アルファ・アーカイム

アルファシティ メインストリート沿い

カフェ "ファースト・ストリート・カフェ"


 テレビに映し出される、輸送船の格納庫内。

突如、天井を突き破り、白い何かが落ちてくる。

格納庫の奥に落ちた"白い鳥"。燃え盛る中、再び飛ぼうとジタバタしている。

見た目・動きは本当に鳥そのものだ。

無線音声はカットされているが、周りの環境音は拾っている。

アーマースーツが銃を発砲する。

撃たれた箇所から体液が吹き出るが、効いていない様に見える。

アーマースーツが接近し、手にしていたナイフを突き立てる。

その瞬間、爆発が起こりアーマースーツは船外へ放り出される。

ここで映像は切れた。


 これが、ラビの見ていたあの日。

その映像に圧倒され、クリスは言葉が出ない。

きっとこの中継を見ている全ての人間もこうなっているはずだ。

ラビに目をやると、彼は静かにテレビを見つめていた。


『えーご覧頂いたのが、先日起こった事件の一部始終です。この物体により、2隻の艦艇が瞬く間に沈められました。我々は便宜上これを"白い鳥"と呼んでいますが、今の映像は、この白い鳥へ作業用ロボットでパイロットが勇敢に挑み、そしてその体の一部を持ち帰えった際の映像であります。彼は我が国の誇りであります。が、現在は特例の証人保護プラグラムの下、身分を隠し保護しております』

再び大統領の映像へ切り替わる。

カメラのフラッシュが延々と焚かれる。

『現在、我が国の各研究機関によってこの白い鳥を解析中であります。ここで第一に判明した事があります。それは、明らかに人工物である、という事です!』

記者会見場は更に騒がしくなる。

『鳥の皮膚の下は機械によって構成されており、現在はどの国の物なのかを徹底的に調査しております。これらの行為は我が国に対する明らかな敵対・戦争行為であると受け取り、国家非常事態宣言を発令します。そして我々はこの脅威に決して屈しない、徹底抗戦する! よって、ここに! "アメリカ合衆国宇宙軍(United States Universe Force)"を結成する事を宣言する!! 宇宙清掃業者等の国連の力を盾にしたグレーゾーンな組織でなく、宇宙空間において、アメリカによるアメリカの為の、アメリカを守るための武力保持を、宣言する!』

中継会場の記者たちが一斉に立ち上がり、大きな歓声や、大統領への質問が飛び交い混沌と化す。


「ラビ……」

不安げにクリスは自然と言葉を投げる。

「クリス、俺は多分宇宙軍に行くんだろうな」

彼は淡々と答える。

「まぁいい、とりあえずバーガー食おうぜ。ウェイターのお姉さ~ん!」

明るい声で店員を呼ぶ。

「ちょっと……」

店員が来る。

「ご注文を伺います」

「じゃあこのバーガーセット2つ、飲み物はコーラと……クリスは?」

「え? ……ジンジャーエールで……」

「かしこまりました」

そそくさと店員は下がる。

「はぁ……フライドチキンは要らなかったの?」

「あ、忘れてたわ! アハ、アハハハ!」

不機嫌そうな顔で彼を見る。

「なんでお前が気に食わなそうな顔してんだよ、チキン食いたかったのか?」

ラビは尋ねる。

「アンタが結婚出来ない訳が分かったわ」

「は〜まだ会って2日しか経ってないのに! 人を見抜くチカラがあるんだなあ」

「お水です〜」

カウンター越しに小柄な女店員がコップの水を差し出す。受け取りカウンターに置くラビ。

「あんな体験して、アンタ平気なの?」

水を一口飲み、ラビは答える。

「ああ、今の所はな」

「あんな怖い思いをしても、まだやらなきゃいけないの?」

「クリスと同じさ。俺だって真実が知りたい。最前線で、この目で」

「……私がいかないで、と言っても?」

「俺に惚れたか?」

「ちが……」

思わず顔が赤くなり、俯く。泣きそうだ。

「一つ言っておくがな、俺は結婚出来ないんじゃない。結婚しないだけだからな!」

ラビは笑いながら言う。

何も言い返せない。

「それに俺は馬鹿だからさ、今の仕事だって、軍にいた時だって、ガキの頃だって、生まれてからずっとスリルがある事が好きなんだ。生きてる実感を得られる、というかサ……」

「やめられないの?」

半分泣き声で聞く。

「まぁ、ね。それなら、愛する人を置いて1人で危険な場所に行きたくないし、愛する人に心配も掛けたくないし。1人がラクなんだよ」

「……そう」

涙を雑に拭い、コップの水を一気に飲み干す。

「ハハッ! 俺の水もやるよ」

コップを差し出される。

「バーガーセットですぅ」

さっきの店員が、空気を読んだ様にバーガーを持ってくる。恐らく、この前クリスが来た時に会った小柄な女の店員だ。

「俺コーラの方ね。ありがと」

ラビが愛想よく受け取る。

「これからどうなっちゃうんですかね〜宇宙戦争でも始まるんですかね〜」

店員が何気なく尋ねる。

「さぁね〜平和が一番だけどね〜」

ラビがそう答え、コーラを口にする。

「私も宇宙軍に入れますかねぇ〜」

「フゴォッ!?」

思い切り口に含んでいたコーラを吹き出す。

「あ、申し訳ありません!」

「ちょっ、何吹いてんのよアンタ」

クリスがハンカチでラビの口元を拭く。

「これ使って下さい〜。服汚れてないですか?」

ナプキンを差し出しながら店員が言う。

「ああ、大丈夫、すまないね」

ラビが笑いながら答える。

「軍に入らなくとも、家族を守る事は出来るさ」

「……はい!」

店員は元気に答え、その場を後にした。

「まさかあんな事言われるとはな〜」

またラビは笑いながら言う。

「あの子、本気なのかしら」

「さぁね、だが、彼女は彼女で必死に生きてるんだろう」

ラビは、チラと見えた店員の首・二の腕にあったアザと、皮膚がボロボロの指を思う。

宇宙に上がった所で、人間は変わらない。

上に立つ者が、下の者を服従させる。金の為に。


「んー。なんだか今食べるとそこまで美味しくないわね、これ」

クリスが言う。

「ヒュー、店の中で堂々と言うネェ〜。俺は結構好きだぜ、ソースが俺好みだ」

「そう、なら良かったわ」

その時、背後に数人立っている気配がする。

「ラビ・デルタさん。13時にお迎えにあがると、連絡が行っていたはずですが?」

「えっ」

思わずクリスが振り向きながら言葉を溢す。

「君は……誰だ?」

その男がまた聞く。

「ああ、この子はさっき道端で会っただけさ。実はまだ名前も知らないんだ、ハハハ!」

ラビはいつもの様にジョーク気味に話す。

その男は、クリスが何者か気付いたようだった。

「そうですか。自宅療養の為有給休暇を取っていると思っていましたが、まさかこの様な場所でこの男と会うとは、偶然か、運命ですかな」

「はは、少しは外に出てご飯でも食べないと……」

ひどい苦笑いをしているとクリスは自負している。

「ははー悪いね、迎えが来ちゃった。残りは食っていいよ」

そう言い、ポケットから札を出しカウンターに置くラビ。

「じゃあ、また今度ディナーでも」

「…………」

俯いたまま、何も言い返せない。

ラビはクリスの額に軽くキスをして、店を出る。

「ちょっと待ってーー!」

店の奥から、あの店員が走って来る。

「近づくな!」

スーツを着た男が、その店員の顔を叩く。

「お前、子供相手になにしてんだ!!」

思わずラビがその男を殴ると、他の男が3人がかりでラビを抑える。

別の男が店員を捕まえ、ラビから引き離す。

「お兄さん! 宇宙軍のパイロットなんでしょ!? 私も、連れて行って! 下さいぃ!!」

その店員の少女は半分泣き叫びながら、男に引きずられ、店に戻される。

ラビの方も拘束を解かれ、車に乗せられ、すぐに出発してしまう。

「う、うぅ……うわああああああん」

その少女は周りの目など気にせず、床に膝をついたまま泣き出してしまった。

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